
「万博へオール京都で盛り上がりましょう」。判藤の力強い声が響いた。
12月に京都府精華町のエースジャパン本社で行われたベンチの組み立て体験会。この日は、校庭樹木の伐採などでベンチのもとになるチップ作りに協力してきた宇治市立槇島中学校の生徒22人や府の関係者らが参加した。万博には、2,000脚(4,000席)という圧倒的数量のベンチを提供する。せっかくの機会、多くの人々を巻き込んでいきたい。判藤の知恵とこだわりだ。
工場では、プレス機を使った工程などを見学。「木材チップに620トン、大型車30台分の力を加えて圧縮していきます」という説明にうなずく生徒たち。自分たちが集めた枝や葉を粉砕したチップが1枚の木板に姿を変えていく。組み立ては、2人1組となり座面の裏側に接着剤を塗り、木板からくりぬかれたパーツを押し込んで1組2脚のベンチを作りあげた。生徒会長の清水唯楓(いちか)さんは「校庭で木を集めた時はこんな形になると思っていなかった。環境に配慮されているのもよく分かった。万博に見学に行き自分たちのベンチを探したい」と話し、校長の杉本清彦さんは「世界中の人が座る夢のベンチ作りに参加できた。ワクワクする思い」と歓声を上げて組み立てていく生徒たちの様子を見守った。
Co-Design Challengeの特徴の一つに「大資本でなくても取り組めること」があげられる。このプロジェクトも、スタートアップから会社を成長させてきた判藤の手腕によるものが大きい。2,000枚の木板を作るために必要な1袋300kgの未利用間伐材700袋分は、京都府内全域の森林組合などに声をかけて集めた。完成した大量のベンチは、自社が営む運送業の強みをいかして、大型トラックで4日をかけて運び込み、会場内への設置までを行う予定だ。
判藤を駆り立てるものは、急激に進む環境破壊への警鐘だ。「破壊のスピードは速いが、修復にはかなりの時間と労力を要する」。だから若い世代を含め一人でも多くの人へと連携の輪を広げていきたい。「環境課題の解決に向けて、みんなで力を合わせたい」。頭の中には常にこの言葉があった。
工夫を結集しながら歩みを進めてきた判藤は、万博への関心の高まりを感じている。「混沌(こんとん)としているこの時代に、万博に参加できるのは企業としても大きな誇りだ」。視界の向こうに、これまで見えてこなかった景色が広がりつつある。京都発の挑戦は、万博をターニングポイントに次の高みを目指す。


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