コクヨ株式会社
2025.02.13
「万博で『木育』の輪を広げる」老舗文具メーカー 変革の試金石に Vol.4
(左から)兵庫県伊丹市、高知県四万十町、大阪府河内長野市と製作を進めるベンチ

地域の思いを託して万博に出品される木製ベンチ。たとえ1脚であれ、「品質のコクヨ」のプライドは譲れない。生産管理も品質保証も怠りなく、過酷な試験を繰り返して「珠玉のベンチ」を作り上げてきた。

デザイン面でも、自治体に受け入れてもらえるようなコンセプト作りに知恵を絞った。高知県四万十町ベンチのデザインを担当する羽場梢が当初考えたのは縁側のように自由な使い方ができるシンプルで円形状のものだった。社内では「縁側ベンチ」と呼ばれた。

そこに、企画の主旨である住民参加型ワークショップの開催を見越し、また、地元住民にも仕上げに加わってもらうことができるように、円の中心に木のモニュメントを立てることにした。高さ45cmの座面からさらに135cmの〝樹木〟の部分には、適度な「抜け感」を演出するために「くり抜き」のデザインを採用し、強度面への影響とデザインの全体的なバランスを考慮しながら、試作を重ねて強度計算を行った。

このベンチをベースに、11月に県立四万十高校の生徒によるワークショップが、四万十町で行われた。四万十町の鳥である「ヤイロチョウ」などをイメージして木を飾りつける「チャーム」作りでは、生徒たちが自分たちの思いを込めて自由に彩色やデザインを施し、彩りを増したベンチが完成した。

コクヨは2006年から同町で森林組合などと協働し「結(ゆい)の森プロジェクト」という森林保全活動に取り組んできた。羽場は、その森林資源を活用する家具ブランド「yuimori」を担当する。今回のベンチも、この森で育ったヒノキが使われる。「とても大変ではあったが万博への期待を感じることができた」と振り返る。丸みを帯びたデザインが木の持つ優しさとも相まって四万十の風を感じられる作品となった。

「ランドスケープ(景観)」型のベンチを担当したのは、靍﨑健太郎だ。河内長野市と四万十町が採用した。河内長野市のベンチは「森林が生み出す自然の恵み 豊かな水源」と「街道と豊かな緑が織りなす魅力」がテーマだ。「初めて座る人に何だろうと興味を持ってもらいたい」と象徴的でありつつ抽象的であることにこだわった。例えば背もたれにデザインされた水紋の広がりは、ダムや滝、山々へと続く水の恵みを想起させる。水紋の色出しにも苦労した。青でも緑でもなく、深みがある「自然から引用した色」にようやくたどり着けた。四万十町のベンチは、四万十川や沈下橋をデザインした。コラボレーションした地域・自治体の風景が、ベンチという形で万博に参加するワクワク感。「製品デザインという自身の価値観を、あえてずらしたようなアプローチがとても新鮮だった」と語る靍﨑は、確かな手応えを感じている。 

チームの支柱、酒井宏史は、Co-Design Challengeでの取り組みについて、これまでにない新鮮な体験を通して、コクヨの国産材家具の次につながる可能性を感じていると言う。新たなスタートへの第一歩はすでに踏み出されている。

高知県立四万十高校の生徒が参加したワークショップの様子
大阪府河内長野市と製作を進めるベンチ
(左から)インテリア開発部 羽場 梢さん、
マーケティング部 酒井 宏史さん、
インテリア開発部 靍﨑 健太郎さん

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