丸紅株式会社
2025.02.20
「何度でも生まれ変わる循環型食器」 一人の社員のひらめきが開発につながる Vol.3
万博会場で提供を予定する「edish」の食器(ボウル)とフォーク

大阪・関西万博では、循環型社会の実現に向け、リデュース(削減)、リユース(再利用)により廃棄物を最大限減らしたうえで、リサイクルを徹底した運営を目指そうと様々な試みが行われている。

特に、短期間に多くの人が来場する万博会場では、一斉に大量の飲食物が提供されることから、食べ残しや使い捨て食器のごみ問題は避けて通れない。博覧会協会は、使い捨て食器が使われることの多いフードトラックにおいて、飲食物の販売に際しリユース食器の使用を原則にしているが、一部のフードトラックエリアではリユース食器の回収が難しいことを想定している。当該エリアは「edish」とは異なり、生分解性プラスチックの容器を導入し、食品廃棄物とあわせて堆肥(たいひ)化処理を予定している。今回採択された「edish」の食器も会場内で実施される一部のイベントで使用され、使用後は食品廃棄物と一緒に堆肥化される予定である。

万博が挑もうとしている大量の「イベントごみ」問題は、簗瀬がedishを開発しようとした理由のひとつでもある。通常であれば、焼却処理される食べ残しや使い捨て容器。そもそも日本では廃棄物の8割を焼却しており、世界でも突出して高い。特に、廃棄物のなかでも食品廃材などの生ごみは水分量が多いために焼却効率が悪く、大量の化石燃料が必要になるとされている。こうした現状に対し、「燃やす」以外の選択肢を多くの人に知ってもらいたい。簗瀬はCo-Design Challengeに参加を決めて以来、強くそう願ってきた。その思いの原点は、日本の農村部で慣習とされてきた幼少期の日常風景のなかにある。

簗瀬は転勤族の父親のもと、香川県丸亀市をはじめ、愛媛県今治市や松江市など自然豊かな地方都市で生まれ育った。特に、祖父母と同居した丸亀市では、自宅周辺に肥沃(ひよく)な田畑が広がり、野菜や果物の皮、お茶の出し殻などの生ごみがたまる度、祖母が当たり前のように田畑の堆肥場に持っていく姿を目にした。「生ごみには微生物のごはんになる有機物がいっぱい含まれているんだよ」。ある日、口にした祖母の言葉にハッとさせられた。汚いごみだと思っていたものが、土の品質を良くしたり、作物の栄養分を補給したりする働きを発揮し、次の命の芽生えに役立っている。ごみを燃やさなくてもいいだけでなく、ごみ袋や肥料代の節約にもなり、「“一石三鳥”ぐらいの価値があるじゃないか」。

この気づきが、とにかく無駄を嫌う簗瀬の行動の原動力となった。商社マンになってからも、「捨てられているものに価値を吹き込めれば、最強のビジネスモデルをつくりだせる」という信念を抱き、edishの開発へとつながった。

Vol.4に続く

パッケージ事業部 簗瀬 啓太 さん
万博会場で提供を予定する「edish」の食器(ボウル)

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