エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社
2025.03.11
「府民全体でつくるプロジェクトに」 大阪発小売業 万博後の未来に〝恩送り〟 Vol.4
松井貴さんデザインのベンチ:作品名「TREE」

 万博会場の中央付近に位置する「静けさの森」に、エイチ・ツー・オー リテイリングが「いのちの循環」に想いをはせるきっかけにしたいと、3人のデザイナーと共創して制作する「想うベンチ」が設置される。コンセプトは「樹のためのデザイン」。生きている樹木の息づかいを感じ、素材の木と対話できるような「作品」が並ぶ。

 松井貴がデザインするのは、「1本の樹をありのまま使いきる」ベンチだ。1本の樹を丸ごと使って、座面や脚の部材を切り出し、切り込みを入れて乗せるミニマムなデザイン。樹の太さの違いや、反ったり割れたりといった変化をできる限りそのまま受け入れられるように設計されている。

 辰野しずかは、木材の競り市に出かけてデザインの着想を得た。競り市ではシミや節が多い木材は見た目や加工の難しさから「C材」とランク付けされ、細かく砕いてチップなどに加工されてしまうことが多い。「同じ命を受けた樹なのに」と、C材を選んで角材に加工し、再構成することで、木の持つ荒々しさや力強さを引き立てつつ、シンプルな空間にも馴染むデザインを追求した。樹皮を取らないままの部分も使い、材料の多様性を感じ取れるのが特徴だ。

 佐野文彦は、あえて材料のままの形でベンチに。切り倒したばかりの樹は水分が多いので乾燥させてから使うのが通常だが、あえて乾燥工程の一部を万博会場で行う。万博期間内に木材がどのように変化するのかは未知数だが、製品になる過程にも想いをはせ、森を身近に感じてもらえたらというチャレンジだ。

 「それぞれのアイデアが斬新で、わくわくします。デザイナーの皆さんが、森や製材所、競り市と、生きている樹から木材になるまでを一貫して見て回り、それぞれの場面で意見を交換し、議論を重ねたからこそ実現した作品群です」と、プロジェクトをコーディネートする島本は語る。

 会期終了後、ベンチは大阪府内の自然と人が集まる場や交流の場などに設置する予定だ。「新たなつながりを生んだり、地域や人との絆を深めたりする場として使っていただきたい」と島本は言う。ベンチをきっかけに、人々に森への関心を持ってもらう。そして地域木材の利用が増え、それによって森の循環を促し、健全な森の維持に繋がっていく。そんな未来を地域の人々とつくっていくとともに、今回のプロジェクトでチャレンジした「樹のためのものづくり」という価値の転換が、あたり前になることを願っている。

辰野しずかさんデザインのベンチ:作品名「C/D Bench」
佐野文彦さんデザインのベンチ:作品名「FILLET」

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