コクヨ株式会社
2024.02.27
「万博で『木育』の輪を広げる」老舗文具メーカー 変革の試金石に Vol.2
ベンチのデザインについて打ち合わせる

新庁舎整備において伐採する街路樹のクスノキを再利用したいと、兵庫県伊丹市はコクヨの取り組みに真っ先に手を挙げた。クスノキは市の木に選ばれており、廃棄せずに活用する方法を模索していたところだった。12本から6台のベンチを製作するため、早々に2023年度の補正予算に組み込んだ。伊丹空港や歴史がある清酒をモチーフにしたデザイン3案を伊丹市とコクヨ、そしてCo-Design Challengeの取り組みに協力するVUILD株式会社のサポートで考え、未来を託すであろう市内の子どもたちに投票してもらう。子どもたちと共に創られた地域材を活用した「伊丹市」ベンチ。5台は大阪・関西万博の会場に、1台は新庁舎に設置。万博閉幕後は、新庁舎前に整備する市民広場に移設する予定だ。

「ベンチという手段をつかって、地域と世界をつなげることができる」。プロジェクトリーダーの酒井宏史は期待する。自分たちが作ったベンチで、世界中の人たちが足を休めたり、お弁当を食べて交流したりする。そんな姿を見たら、子どもたちも世界を感じられるはず。足立も「そのベンチが返ってきたら、自治体の中でも大切な財産になるのではないか。そうすれば、地域の木の良さや地域愛を雄弁に語ってくれる子どもたちが育っていくきっかけになるかも。万博という最高のイベントを活用して『木育』につなげたい」

とはいえ、さまざまな壁も立ちはだかる。コクヨは、間伐材を使った家具作りに取り組んではいたが、スチール製の商品に比べてコストが高止まりし、これまで「主力商品」にはしてこなかった。さらに、オフィス用の開発がメインのため、戸外用の製品開発はあまり経験値がない。酒井は「地域の環境によって木材の特性が違い、ベンチにした時に品質をどう担保していけるか。湿度や温度、紫外線による変色の度合いなど、何回も実験を重ねて急ピッチで課題をクリアしていっている」と現状を説明する。 

コクヨは2030年までの第3次中期経営計画のなかで、「家具から、多様な『働き方』を支える『オフィス空間』へ、文具から、自分らしい『学び方と暮らし方』を支える『道具・サービス』へと事業を展開する」とうたう。大量生産、大量消費、大量廃棄のリニア型経済からの脱却を図るため、Co-Design Challengeへのチャレンジは会社が変わる試金石となり得る。

足立は言う。「木ひとつをとってみても、活用方法だったり、『木育』だったりと自治体によって課題は違う」。社員一人ひとりがその課題に向き合い、ベストな選択肢を一緒になって考え抜く。「難易度は高いが、非常にやりがいのある作業。単にモノを売り、サービスを提供すれば終わりではない。これからは、働き方を、空間を変え、お客様も気づいていない課題を解決する集団に生まれ変わっていく。新たなコクヨの企業理念を体現していく一歩になるはず」

Vol.3に続く

コクヨ ワークプレイス事業本部 TCM本部 マーケティング部 酒井 宏史さん
木材切り出しの様子

この記事をシェアする