一般社団法人吉野と暮らす会
2024.03.05
「伝えたいのは木の循環のストーリー」 奈良・吉野の後継者たち 次世代に向けて Vol.2
吉野ブランドのベンチ材

「日本の森を、林業や製材業を守らないといけない。そういうフレーズをよく耳にしてきたが、ピンとこなかった。ここで生活して、その理由がようやくわかった」

大阪市から2021年、吉野町に移住した吉川晃日は打ち明ける。大学4年だった19年、吉野川のほとりの小さなゲストハウス「吉野杉の家」を訪れたことがきっかけだ。運営する「吉野と暮らす会」の辻健太郎(辻 木材商店)らと交流し、木の暮らしを体感した。地域が抱える課題をネガティブにとらえず、木の生かし方を面白がって探る姿に魅力を感じた。

品質だけではない、新しい吉野ブランドを再構築したい。同会が思い描くのは、吉野だからこそ発信できる「木の循環」のストーリー。「山に自然と生えている木が建材や木工製品に使えるわけではない。生活を彩る木材がいまここにあるのは、数百年もの時をかけ、多くの先人が木を植え、切り出し、製材して乾燥させ、利用して得た収益を山に還元する営みを粛々とつないできたから。この循環が途絶えれば、木のある暮らしそのものが失われてしまう」。辻は力を込める。

製材した木は強度を高めるため、半年から1年程度、じっくりと天然乾燥させ、熟成させる。この工程の生材をベンチにして、香りや手触りを五感で味わってもらえば、世界中の人たちにストーリーを伝えるきっかけになるのでは。この着想がCo-Design Challenge参加の決め手となった。吉野材でオーダーメイド家具を製作する「グリーンフォレストエンタープライズ」代表取締役、田中寿賢は「循環をつなぐため、新たな価値を生み出そうと、モノづくりに取り組む職人の姿や思いも同時に伝えられれば」と万博に期待をかける。

吉野貯木場の街歩きや空き工場でのワークショップ。吉川はいまでは同会の中心となり、木の魅力や可能性を再発見できる企画を次々と打ち出している。「木を育て、山を守ることは地球温暖化対策や防災にもつながる重要なカギを握る。暮らしの中で減ってきた、人と木の接点を作り直すことで、多くの人に遠い世界の出来事ではなく、自分事としてとらえてもらいたい。自分がかつてそうだったように」

いま、吉野町には木に関心を抱く人たちが世界中から訪れる。同会では、空き工場を多くの人が集える広場に整備するための準備を進めている。万博閉幕後は、地域に戻ってきたベンチを広場で活用したり、新たな木製品の材料にしたりして、その収益を山の整備に活用し、循環させていく予定だ。「次世代にバトンをつないでいくため、吉野という地域、循環を支える担い手の姿、両方合わせて目を向けてもらいたい」。石橋の言葉は、同会みんなの願いだ。

吉野と暮らす会ディレクター 吉川 晃日さん
吉野と暮らす会 辻 健太郎さん
有限会社グリーンフォレスト・エンタープライズ 代表取締役 田中 寿賢さん

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