
大阪で生まれ育った小売業だからできることに挑戦したい。阪急阪神百貨店を傘下に持ち、スーパーなども幅広く展開する「エイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)」は、大阪産木材を使ったベンチの製作と、プロジェクトのウェブメディアでの情報発信に、住民と一緒に取り組む。タイトル「想(おも)うベンチ―いのちの循環―」に込めた「想い」とは何か。小売業の社会的役割を問い続けてきた企業の、一つの答えが万博で示される。
2023年4月、「阪急うめだ本店」8階に新しい売り場が誕生した。その名は「GREEN AGE(グリーンエイジ)」。足を踏み入れると、すがすがしい芳香が鼻をくすぐる。売り場を包み込む香りの正体は、天井の櫓(やぐら)や椅子などの什器(じゅうき)に使われている大阪産ヒノキの間伐材だ。
「グリーンエイジのコンセプトでもある自然共生を売り場全体でどう表現するか。グリーンエイジは担当者にとっても、会社にとっても未知数の取り組みだった。」
サステナビリティ推進部長の西田哲也は振り返る。
自然環境を守ることはもちろん、大阪で生まれ育った小売業として地域の持続的な発展にもつなげたい。両方の思いを反映させるため、大阪府の森林整備や木材利用の専門家であるみどり公社にも全面的に協力をいただきながら、完成までには長い歳月を要した。
小売業界では従来、売り場を改装する際、古くなった内装・設備は廃棄して一新する「スクラップ&ビルド」が一般的だ。サステナブルとはいえない慣習を見直すため、まずは継続して10年つかえる売り場づくりを目標にした。
売り場什器の開発等も行っているグループ企業のスークカンパニーとともにアイデアを出し合ううち、候補にあがったのが地元産の間伐材だった。H2Oは21年7月から、大阪府と包括連携協定を結び、間伐材の再利用を進める「大阪 森の循環促進プロジェクト」を進めてきた。泉南地方の森で間伐から製材、加工までを学ぶ社内研修も行ってきた。だが、2300平方メートルにも及ぶ売り場に大々的に活用する試みは、一筋縄ではいかなかった。
間伐材は、密集化した立木を間引くタイミングで切り出される。その時宜を見て調達する必要があり、従来のスケジュール感は通用しない。また、天然材の強度や風合いを最大限生かすため、自然乾燥させたが、夏場は水分の含有量が多く、人工乾燥よりも想定以上に時間がかかった。製法にもこだわり、くぎは極力使わず、昔ながらの木組みの手法を取り入れた。
単店ベースで全国2位の売り上げを誇る百貨店だけに反響は大きかった。23年8月、府の「CO2森林吸収量・木材固定量認証制度」第1号に選出された。森林が温室効果ガスの吸収源となるほか、木材は炭素を長期的に貯蔵できることから、第二の森林づくりにつながる建築物への利用を促す制度だ。グリーンエイジは、規定量(0.5立方メートル)を大幅に上回る8.48立方メートルの木材を使用し、地球環境への配慮が高く評価された。
こうした一連の取り組みが、Co-Design Challenge参加につながる機運となった。
(Vol.2に続く)


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