木目の美しさに曲面を多用したユニークな造形のベンチが姿を現した。「つながる飛行機雲」。地域材を活用したコクヨの取り組みに参加する兵庫県伊丹市の公立小学校に通う児童らの投票で決まったデザインだ。新庁舎整備で伐採された街路樹のクスノキを活用し、4層に積み重なった雲形ベンチは、空港のあるまち・伊丹と世界を繋ぐシンボルとして、繋がる想いが積層する意味を込め、伊丹の未来を託す。そんな思いを受け止めようと、プロジェクトは始動した。
「木材を使った、屋内外で使用できるベンチ」。コクヨはスチールのオフィス製品を扱う仕事が多いので、知恵を絞り、工夫を重ねていくしかない。木材の接着剤の選定だけでも様々な想定、検証を必要とした。営業の山野内孝満は、クスノキの活用をはじめ、サステナブルな新庁舎整備に合致するベンチづくりを目指し、社内のプロジェクトチームに要望を伝えていく。品質には徹底的にこだわり、決して妥協しない。調達を担当する堀田俊彦は、苦労の連続だった。持ち込まれたクスノキは丸太にして10本分。反り返ったり節があったりと全てが使えるわけではない。より分けていくことで、180cm×90cmほどの木板5、6枚を何とか確保し、肘置きや1層目を支える部材に使うめどがついた。
完成前の座面には、15cmほどの丸く変色した部分が残る。落下衝撃繰り返し実験の跡だ。製品立ち上げを担当する由井克人が解説する。「JIS規格では57㎏の重りを高さ3.6cmから10万回落とし耐久性などを試すが、大阪・関西万博に訪れる外国の方を想定し、さらに10万回の実験を重ねた」。紫外線対策、安全面への配慮。どれ一つ手は抜けない。設計にあたる寺尾保紀は、子どもを遊びに連れて行った公園で、何かヒントはないかとベンチを子細に観察し、写真に収めた。「ずっと子どもたちに使い続けてほしい」。そんなパパの思いも込めた。来年2月には、制作する6台のうち2台の組み立てを、伊丹市のワークショップで児童らと行う予定だ。
チームを束ねる酒井宏史は言う。「ベンチを納品して終わりではなく、どうメンテナンスしていくかまで考えている。ゼロからアイデアを絞り出し、そこに各部署のノウハウを結集し、絶対的な自信を持って取り組んできた」。高知県四万十町、大阪府河内長野市でも、地域材を生かした同様の取り組みを進めている。未来へのチャレンジ。コクヨにとっての大きなレガシーになるだろう。
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