一般社団法人吉野と暮らす会
2024.11.08
「伝えたいのは木の循環のストーリー」 奈良・吉野の後継者たち 次世代に向けて Vol.3
試作品の「吉野材のベンチ」

2024年4月、ついに試作品のベンチが完成した。鮮やかな木目の吉野杉5本がどっしりと座面に並び、脚の素材に使われたH形鋼と相まってインダストリアル(工業的)な雰囲気を漂わせる。シンプルながらも無骨なデザインは、木に印字したロゴ「吉野貯木場」のイメージが素地になった。「貯木場内いっぱいに並んだ桟積みを目にする度、なぜか興味をそそられ、ワクワクした。そんな子供の頃の原風景をカタチにしたかった」。デザインした富松暖は、そうコンセプトを明かした。

世界三大デザイン賞のうち二つの受賞歴がある富松は東京生まれだが、故郷で子育てしたいという父親の希望で、3歳から学生時代まで吉野町で過ごした。木を乾かすため、桟を敷いた上に何段にも重ねられた「桟積み」が広がる貯木場内を眺めながら、学校に毎日通った。その光景はいつしか、吉野を象徴する記憶として脳裏に焼き付いていった。東京の大学に進学後、デザインの道を究めるためにイタリアに留学。帰国後は東京を拠点にキャリアを築いた。だが、子どもが生まれ、今後の生活を考えた時、自然に父親と同じ選択をしていた。2020年、吉野町に家族で移住。「吉野と暮らす会」の仲間と吉野ブランドの再構築に動き出した。

試作品の仕上がりと同じ頃、富松がデザインしたモニュメントが吉野貯木場に設置された。見た目はベンチ以上に桟積みそのもの。「貯木場のシンボルとして、これ以上のものは浮かばなかった。この風景を未来につなげるため、万博会場でベンチに座った人にここを訪れ、木の魅力に触れてもらいたい」。デザイナーとしての感性を育んでくれた吉野を思い、富松はそう願う。

吉野貯木場では2024年10月中旬、木の祭典「よしのウッドフェス」が2日間にわたり催された。多くの人が工場見学や木工体験で学びを深め、一本下駄(げた)飛ばしや年輪当て大会などを楽しんだ。企画した吉川は「まずは、吉野材の可能性や面白さを体感してもらう。そこを入り口に、木は暮らしや食文化に密接に関わってきたことにもアンテナを向けてもらいたかった」と話す。大阪・関西万博の来場者をいかに吉野にいざない、木の循環の大切さを知ってもらうか。ベンチ製作と並行して思案中の仕掛けづくりも、そこにヒントがあるようだ。吉川は「Co-Design Challengeを通じて万博を機に、吉野ブランドを知らない若い世代や海外の人にもリーチし、木に関わるプレーヤーを一人でも増やしたい」と決意を語った。

吉野貯木場のモニュメント広場
よしのウッドフェス「年輪当て大会」の様子

この記事をシェアする