大阪・関西万博では未来を見据えたさまざまなものが展示される。展示する什器(じゅうき)のひとつとして、「軽量・高強度で多彩なデザイン設計が可能な古紙から生まれる『展示台』」が選ばれた。什器の概念を打ち破る段ボール製。奈良県葛城市の「高木包装」が中心となり、美大生らと共創し、斬新なデザインをかたちにする。
奈良の歴史を地域創生につなげようと若手経営者らでつくる「一般社団法人サスティナブルジェネレーション」がCo-Design Challengeへの参加をめざすことは、理事の髙木美香にとってタイムリーだった。「段ボールの可能性を知ってもらうチャンス。リサイクル率100%に近い、環境にやさしい素材を使って未来をデザインしたい」。迷わず「国内外からの多くの人に見てもらえる展示台」の制作を提案した。
髙木は、創業者社長の父・正年の後をつぎ、段ボール加工業を営んでいる。100人余りが勤める本社工場の強みは、小さな電球1個からバイクまで、他社が受注しない大小さまざまな品物を包む箱を量産する技術力。そして業界コンテスト6年連続入賞のデザイン力だ。
展示台は金属製や木製が一般的で安定性や強度があるが重くて設置が大変だ。一方、段ボール製なら軽く、折りたたんで運べ、ひとりで組み立てられる。繰り返し使え、環境への負荷も小さい。重さや水に弱いとの見方があるが、髙木は言う。「それは過去の話。今は強度、安全性ともほかの素材に負けない。ベッド、机や椅子といった家具にもなる」。同社は災害の際に避難所で使う組み立て式のベッドやトイレを提供する協定を、近隣3市と結んでいる。2016年の熊本地震では自社トラックで被災地へ届けた。
髙木は、今回の展示台を展示物の引き立て役で終わらせず、「段ボールの概念を大きく変えたい」と考える。設計するのは、髙木、アートディレクターの中嶋裕之、美大でプロダクト・デザインを専攻する3人の学生らだ。通常は設計段階から展示物を想定するが、今回はまだ決まっていない。「難しいが、安全性や耐荷重などの実用性と、学生たちのみずみずしい感性が生み出すデザイン性を両立させたい」と中嶋は語る。その先には髙木がめざす「段ボールの新たな可能性、価値」が見えてくるはずだ。
髙木は「大阪・関西万博は通過点。いえ、私たちにとっては未来へのスタート地点」と話す。その思いは、Co-Design Challengeの一環として取り組む、本社工場での体験企画にも込められている。
(Vol.2に続く)
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