Co-Design Challengeを通じて、十枝内は自身が「&SPACE PROJECT」で実感するように、「宇宙産業は一部の人たちだけが関わるものではなく、見て、触れてもらうことができる、意外と身近なものだ」と感じてもらいたかった。国内外の多くの人々が訪れる万博会場で、ロケット廃材を使用していることが一目でわかり、かつ身近に感じてもらえるプロダクトは何なのか。
試験用ロケットの燃料タンクを使用した「宇宙タンクベンチ」の万博会場への提供を決めた。タンクは高い強度と軽さを併せ持つアルミ合金だ。溶接などの金属加工は、巨大な橋梁(きょうりょう)製造を得意とする「釧路製作所」で行う。ベンチシート部分のベースは北海道産木材を使用した木工組みで、木製家具・建具や店舗什器(じゅうき)製作を行う「得地ファニチャ工業」の釧路町にある工場で加工する。道東エリアのものづくりの力を結集して、ベンチに仕上げていく。「切り刻んで元の形がわからなくなっては意味がない。タンクだと一目でわかるプロダクトはなにかと考えた結果が、ベンチでした」。廃材の傷や汚れはあえて残して、タンクに刻まれたロケット開発の記憶も大切にする。試作品は完成したが、気温が上昇した際の熱対策や小さな子どもが触ってもけがをしないような安全に配慮した加工など、万博本番に向けてアップデートを行っていく。
体験企画では、釧路製作所や得地ファニチャ工業など、ベンチ製作を担った工場のものづくりを体感してもらうオープンファクトリー企画とあわせて、道東エリアの豊かな自然や文化を満喫できるツアーを検討中だ。釧路湿原には、キタキツネやエゾリス、希少種のタンチョウ、シマフクロウ、オジロワシなど200種以上の鳥類や動物が生息している。「釧路湿原の展望台近くにいると、エゾシカが顔を出すことがあります。体験企画では、地域特有の体験をしていただくことで道東に来てよかったと思ってもらえるようにしたい」と十枝内は道東をどう楽しんでもらうか思いを巡らせている。
「宇宙産業は過渡期にあると言われています。そうした時期に、道東を中心にした道内外の多くの企業と連携して、ロケット廃材を使ったベンチを万博会場へ提供することができるところまで来ました。宇宙は遠いけど、確かにある、楽しくてワクワクする存在です。私たちの『&SPACE PROJECT』を通じて、宇宙に興味を持ち、自分も関われるかもしれないと思い、目指す人が増えると幸せです。万博は一つの契機になると強く思っています」
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