京丹後市の溝川は、家具・建具店として1960年に創業。その技術力を生かして家具領域に進出。高度経済成長期には、工業製品化が進み量産品販売のみを行う家具小売店も増えたが、使い手に寄り添ったものづくりにこだわり続け、現在でも近畿圏内の商業施設や病院などから受注し、オーダー家具を製作する。
スツール作りでは木工部分の座面と脚を担当する。当初は、京丹後地域の古民家廃材をスツールの木工部分に使用しようと考えていた。若者が地域から離れて高齢化が進み、先祖から引き継がれてきた古民家が空き家となり朽ちていく。そんな光景を見るたびに「万物に生命と役割がある。一人で生きているのではなく、何代も前から脈々と引き継がれてきたものがある。古民家にもそこで暮らしてきた人々の思いが詰まっている。壊して廃棄するのではなく、古材をアップサイクルすることで、その思いも受け継いでいって欲しい」という髙杉の思いがあった。そんな中、2024年元日に能登半島地震が発生する。髙杉はプロジェクトメンバーとも協議し、スツールの木工部分に災害廃材を使用することにした。Co-Design Challengeに参加し災害廃材を活用したサインスタンドを製作する金森合金(本社:金沢市)と連絡を取り、家の柱や梁(はり)だった災害廃材を手にした。髙杉は「この柱、梁は、能登で正月に集う家族を見ていたかもしれない。『人の営みを忘れないで』という思いで、廃材にはさせない、まだ命は宿っている。」と話す。
木工部分の試作品づくりはこれからだ。座面デザインは円形で、山下が刺繍を施すクッションを据え付けではなく交換できるようにし、接合には釘を使わない堅木を用いた工法「楔(くさび)」で作る予定だ。髙杉は「木は生きている。だから能登の災害廃材を京丹後で加工し、万博会場の大阪で使用すると、その環境の違いで変化する」と言う。そのため、通常は木材の表面にウレタン加工を行うが、今回は加工しないで木がどう動くのかも感じてもらいたいと考えている。
また三葉商事と溝川の両社では、ものづくり現場の理解を深めようと、体験企画も計画している。三葉商事では、工場見学を実施し、参加者が選んだタオルなどのグッズに、好みの文字データを刺繍したオリジナル品を作る。溝川でも、工場見学の後、建具の技法「組子」を取り入れたコースターを作り、用途が変わっても技術が生きる事を体感してもらう。さらに、刺繍の図案になった舞鶴市の運河「吉原入江」や、京丹後市指定文化財の霧ノ宮神社の巨樹「八岐(やつまた)スギ」などを周遊してもらうことも検討している。
山下は「万博を機に生地の各産地に刺繍を役立て、さらに刺繍でテキスタイルを作り、室内装飾を手掛けて世界に届けたい」と言い、髙杉は「京丹後では廃村もあるが、協力して生きている人がいる。万博後も、そんな営みを心にとどめてほしい」と願う。
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