広島県府中市は県東南部に位置し、「消滅可能性自治体」にリストアップされている中山間地域だが、時代の風を読みながら伝統の技を活用し「進化するものづくりの街」に変わろうとしている。のどかな里山から、Co-Design Challengeを通じて万博会場に送り出すのは「山並みの景色を切り取った」、額縁工房の作るスツールだ。そこには弱みを強みに転じた復活のストーリーがあった。
「明るく、楽しい地域社会をつくること」をキーワードに2011年に設立されたのがNPO法人「府中ノアンテナ」だ。副理事長の小谷直正が今回のプロジェクトを仕掛ける。地域の魅力を次世代にバトンタッチしたいと奔走する小谷だが、「ここに自分の未来はないかもしれない」と大学進学を機に府中を出たUターン組だ。府中に戻ったのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。当時東京の企業に勤めていた小谷は、震災当日福岡に出張中で、夜行バスでやっと戻った東京は、コンビニもスーパーの棚も空っぽだった。「この先東京にはいられないな」。2009年に生まれた子どものこともあり2012年に府中に戻り、その後地元の縁で、「府中ノアンテナ」の活動に加わるようになった。
「葉っぱの色が一枚一枚違う」。一度は離れた古里の自然がいとしくなったころ、この街の面白さが見えてきた。繊維、木工、金属と地場産業の盛んな地域ではあったが、代替わりする中で新しいものづくりに挑戦し、ニッチ(隙間)を開拓していく企業の姿があった。「府中ノアンテナ」は「瀬戸内ファクトリービュー」と銘打ち、工場見学やワークショップを行っているが、携わるうち小谷には希望と夢が見えてきた。「府中のポテンシャルを発信したい」。中国経済産業局からのアドバイスもあり、Co-Design Challengeへの挑戦を決めた。
協力先として声を掛けたのは、1988年創業の「伝統工芸株式会社」だ。書道が盛んな土地柄もあり、額縁や屏風、茶道具などのメーカーとしてスタートしたが、海外からの格安製品などの流入もあり生産は減少。起死回生の一手として2012年ごろから家具作りに乗り出した。「まさか家具を始めるとは」。代表取締役社長の服巻(ふくまき)年彦は振り返るが、活路を開いたのは額縁作りで磨き上げた伝統の技だった。手仕事を駆使して生みだされる精緻(せいち)な美。万博の場で勝負するのは、職人の魂が宿った木製スツールだ。
(Vol.2に続く)
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