特定非営利活動法人府中ノアンテナ
2024.12.19
「山里の額縁工房が作るスツール」。手仕事の職人芸が紡ぐ物語 Vol.2
額縁工房の椅子(スツール)の試作品

服巻は24歳まで東京で料理人として活躍していた経歴を持つ。結婚を機に妻の実家の「伝統工芸」を手伝うようになった。時はバブル崩壊のころ。「このままじゃいかんぞ」。模索を続けるなか、思わぬところから新しい注文が入った。ソファメーカーから脚部製造の依頼だった。目を付けたのは額縁作りで培った「留め」の技術だ。少し方向性を変えるだけで自分たちの強みがいかせる。今につながるターニングポイントとなった。

「留め」とは、断面を45度に切断した木材同士を直角に接合することをいう。強度を落とすことなく見た目も美しいが、高い精度と技術が要求されるため家具メーカーでは手が出しにくい領域だ。他社から受託するOEM(相手先ブランドによる生産)では、技術が流出してしまう。オリジナルの家具作りに踏み出した。小さな工場なので大量生産はできないし、大きな製品も作れない。すべての工程が手作りだ。弱みは強みに転じた。「家具メーカーには作れない家具」は評判を呼ぶようになった。

万博会場には、5脚のスツールを出す予定だ。「留め」の技術が生み出す美しい曲面、なめらかな手触り、木目の優しさ、すべてが心地よさに通じる。「伝統工芸」で取締役を務める安田剛は言う。「額縁は作品を引き立たせるための道具。その思いを引き継ぎ、主張せず、暮らしを引き立てる家具を目指した」。和のテイストも受け、海外からも注文が入る。工場の周辺は、たおやかな稜線(りょうせん)の山々。「周囲に直角的なものはない。職人も穏やかで優しい。そんなストーリー性も感じてほしい」。思いは作品に、にじむ。

体験企画では、「額縁に収めたくなるような」美しい景色を体感するツアーを提供する予定だ。額縁作りや山の幸の食体験、山にスツールを持ち込んでの野点(のだて)など、過疎地を逆手に取って里山を丸ごと楽しんでもらうことを検討している。

服巻は「コンパクトにまとまって色々な業種の人間がフレキシブルにチームで動く。そこが府中の良さだ」と言い、「万博を海外の販路拡大のビッグチャンスにつなげていきたい」と意欲をみせる。

府中は、江戸時代には石見銀山(島根県)と瀬戸内の港を結ぶ石州街道の要衝の地だった。進取の気風が育まれ、変化を楽しむ土壌がある。小谷は「ブランドとしては知られていないが、商品の良さで選ばれるインディーズの企業が多い」と言う。だからこそと力を込める。「このプロジェクトは、若い人たちの未来もつくっている。万博を新たな人との出会いの窓にしたい」。

開発のベースとなっている製品
体験企画の額縁作りの様子(「留め」の接着工程)

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