2024年10月。私たち万博SNS取材班は、東ゲートを入った正面にある三菱未来館を訪れました。出迎えてくれたのは小美野一(おみのはじめ)事務局長と設計士である荒井拓州(あらいたくしゅう)さんのおふたり。パビリオンの運営責任者と設計者であるふたりから語られたのは「ひらかれたパビリオン」という考え方でした。「20年前の愛・地球博で見た光景が忘れられなかった」「可能な限り多くの方に訪れてほしい」ひとりひとりの思いや熱量がかたちづくった三菱未来館の見どころに迫ります。
⇒三菱未来館の特設サイト
ちょっと気になる万博ニュース、今回のゲストは三菱未来館、小美野館長と設計担当の荒井さん。おふたりにSF大好き特派員Iがお話を伺いました!
小美野さん
三菱パビリオンは通称「マザーシップ」。日本語で「母船」です。ここから2隻のバーティカルシャトルが時空を超え7,500万キロの旅に出ます。
特派員
時空を旅するための母船ですか!SFですね、いいですね!かっこいい!
そう言われてみると・・・あっ!このパビリオン、浮いてる!!建物の半分くらいが浮いてる?この先っぽの方。支える柱も、壁もない!空飛ぶ建築ですね!?
荒井さん
空は飛ばないですけど、浮いてます。浮かしてます。
特派員
残念、飛ばない。でも、浮かしているというのは、めちゃくちゃ軽い新素材…いや、なにか最先端の技術で浮力を得ているとか?
小美野さん
浮力はないんですが、実は「ショートサーキュラー」という考え方を実現した建物になっていて、素材の考え方も最先端と言えば最先端・・・かな?
荒井さん
最先端ではないです。「ショートサーキュラー」っていうのは、できるだけ小さく短いサイクルで資源をグルグルさせてゴミや無駄を減らそうという私たちの取り組みのことです。
特派員
グルグルですか。例えば?
荒井さん
例えば、ふつう建築に使われることのない仮設用の資材を外観に使ったり、コンクリートでガチガチに建物の基礎を固める代わりに、解体後再利用ができる建材を使ったりしています。
特派員
仮設用資材ですか?
荒井さん
はい。会期後、建物をきれいにバラしたら、別の建設現場の仮設資材としてそのまま流用します。
小美野さん
日差しを避けて涼めるよう設けた半地下スペース、これもグルグルさせてるんだよね。
荒井さん
そうですね。敷地の周囲にシロツメクサが生える斜面が見えると思いますが、これには半地下空間を生み出すため掘り下げた土を使っています。万博が終わったら、土をそのまま戻せば平らになるというわけです。敷地の中だけでグルグルできる。
特派員
シロツメクサに囲まれた広場、見たかったなあ。(当日はまだ小さな芽が出ているだけの土の斜面だった)
小美野館長
ちなみにここのスペースはどなたでもご利用いただけますので日中はぜひ、お子さま連れの皆さん、体力に自信のない皆さんで譲り合ってご利用いただければと思います。
荒井さん
公園のような雰囲気で落ち着けると思います。すぐ近くにコンビニができるそうなのでひと息いれにきてください。
特派員
どなたにもひらかれているパビリオンという点を、もうすこし詳しく教えてください。
小美野さん
三菱未来館は、まさにその「ひらかれたパビリオン」というのを目指しています。「いのち輝く地球を未来に繋ぐ」というのが当パビリオンコンセプトなのですが、そのためには、なるべく多くの方といのちあることの奇跡や可能性というものを共有していく他ないのではないかと考えたんです。
荒井さん
その意味でパビリオンの内も外も、うまくつながったと思います。
特派員
さて、三菱未来館で体験できるのがこちらの『JOURNEY TO LIFE』ということになるわけですが、深海から宇宙への旅。SFですねえ。
小美野さん
そうですね、サイエンス・フィクションではあると思います。ただし、フィクションではありつつも、科学的根拠に基づいている点が特徴になります。
特派員
サイエンスの方が重要だということですね?
小美野さん
重要とまではいいませんが、その内容はアストロバイオロジー(宇宙生命科学)の学術的な研究をよりどころとして構成されています。
【アストロバイオロジー】
“なぜ地球は生命の星になったのか、宇宙に我々以外の生命はいるのか、生命はこれからどう進化していくのか”という疑問に答えようとする学問。
『JOURNEY TO LIFE』はアストロバイオロジー研究の第一人者、東京科学大学 (地球生命研究所所長)の関根康人(せきねやすひと)教授が総合監修を務めている。
荒井さん
内部には頭上を覆うような巨大スクリーンをつくっているんですが、僕もまだ実際の映像は見たことがないんです。スクリーンの大きさも、形状も、もうバッチリ迫力満点なんですが、映像が載るとどんなことになるのか、メチャクチャ楽しみにしてます。
小美野さん
いのちというのは、ただあるということそのものが驚きなので、みなさまにもたくさん驚いていただきたいと思います。
特派員
ちょっとだけでも内容を知りたいなあ。
小美野さん
では、ほんの少しだけ。いま人類は、月や火星へ乗り出そうとしています。これは地球の歴史上、40億年前の生命誕生や、5億年前、いのちが海から陸へと広がっていった、そんな出来事に匹敵する大事件なんです。
皆さまには時空を超えて移動可能なバーティカルシャトル「JOURNEY TO LIFE号」に乗り込んでいただき、未知なる深海から遥かなる火星まで7,500万キロの旅に出ていただきます。その先にはまだ誰も見たことのない景色が待っています。ゴーグルなどの機器を使わずご覧いただけるので、どなたにでもお楽しみいただけます。ぜひ、ご一緒にいのちの奇跡に驚き、この先の未来を共有しましょう。
特派員
「JOURNEY TO LIFE号」は1日どれくらいの人数の方が体験できるのですか。
小美野さん
7,000人の方が体験できます。なるべく多くの方といのちの未来について共有することを第一に考え、キャパシティありきで体験設計をしました。しましたというより、私はとにかくいいと思ったものを全力でつくってくれとお願いしただけなんですが。
荒井さん
「あなたたちが実現したいベストなものを持ってきてほしい。それを持ってきたら、承諾するから」と言われました。すごいプレッシャーでした(笑)だけど、とにかく自分たちがいいと思えるものをしっかりつくろうとチームで気持ちが固まって、結果的にほんとうに好きなことを好きなようにやらせてもらったと思います。
小美野さん
万博なんてまたとない機会なんですから、やりたいことをやらせてあげたい。素人が口出しをして、部分、部分、直したら何だか当たり障りのないものになったというのはつまらない。だから「オリジナルを好きにやってくれ」と。
特派員
好きなようにというのは具体的にどんなところ?
小美野さん
4月から10月まで強い日差しが予想されるなか、万博に来場した皆さんが利用できる「待機場所」をつくれたら、という発想でつくられた半地下空間はその象徴的な箇所だよね。
荒井さん
そうですね。実は僕、まだピカピカの新人だった20年前、2005年に日本で開催された愛・地球博でも「三菱未来館@earth」パビリオンの設計に携わっていまして。完成時は万博パビリオンらしく、わかりやすく、目立つ、アイコニックな面白いものができたと思っていたんです。
特派員
でも違ったんですね?
荒井さん
ええ。実際、会期中にパビリオンの前で目にした光景は、入場するため日傘を借りて大行列に並んでいるお客様の姿。それを見た時に、「せっかく来ていただいている皆さんに日よけのある待ちスペースもつくってない!」なんか違ったなという思いがありました。
特派員
すごく具体的な思いがあって、それがかたちになった。万博ってそうやってできているところもあるんだなあ。
荒井さん
この半地下は、入館予約をしていなくても立ち寄れる休憩スペースとしていますので、涼みに来ていただくだけでも本当にウェルカムですし、うまく利用していただけると嬉しいです。
小美野さん
わたしたちのパビリオンは会場の入り口、東ゲートに入ってすぐのところにあります。万博の入り口として、どんな世代の方にも入りやすく、楽しめるパビリオンを目指しました。それはお楽しみいただくコンテンツだけでなく、建物にも表われています。どなたでも、いつでも歓迎いたします。この万博がよき旅となるよう、パビリオンスタッフ一同でお待ちしておりますので、ぜひご来館ください。