EXPO PLL Talks

EXPO PLL Talks #001 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性― EXPO PLL Talks #001 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性―

大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するためのコンセプトである「People’s Living Lab(PLL、未来社会の実験場)」。

このコンセプトのもと、多様な実践者や有識者が、それぞれの立場からテーマに関する取り組みを国内外へ発信し、万博を共に創り上げていく場として、オンライントークイベント「EXPO PLL Talks」がスタートした。

第1回は、テーマ事業プロデューサーの河瀨直美(映画監督)、宮田裕章(慶応義塾大学 医学部教授)、会場デザインプロデューサーの藤本壮介(建築家)、そしてファシリテーターとしてPLLクリエイターの齋藤精一(パノラマティクス 主宰)が登壇。

「新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性―」をテーマに、現代における万博の役割やサイバー空間の可能性について、それぞれ異なる領域の4人の視点から議論を深めた。

EXPO PLL Talks #001 バーチャル万博の可能性とは
時空を超えた「環状」の繋がりのデザイン
万博初の「サイバー万博(仮称)」とは
どのようなものか?

万博初の「サイバー万博」とはどのようなものか?

齋藤

今回は「新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性―」がテーマですが、この「サイバー万博」について、「どういうことだろう?」という方もいるかと思います。

河瀨

わたしもそのうちのひとりです。

齋藤

ディスカッションを進めていくなかで、場所・国境を持たないコミュニケーションのプラットフォームとなる、もしくは様々な人が集まってアイデアやソリューションが繋がっていく場所が必要なのではないかという議論に至り、4月2日にリリースしました。

まず、藤本さんがデザインされている155ヘクタールの夢洲会場を使った各国館・テーマ館・展示・催事が行われるリアル会場、会場自体をデジタル化したバーチャル夢洲会場の双方で万博は構成されています。デジタルツインなどといわれたりしますが、今年10月に行われるドバイ万博でも会場のデジタル化の試みが行われており、ゲームエンジンのなかで動くなど、ミラーリングされた会場をつくることが構想されています。

加えて、場所という定義をもたず、すべての展示がオンラインで行われる万博初の「サイバー万博」を同時開催します。

「いのち輝く未来社会のデザイン」という大阪・関西万博のテーマのなかに「Saving Lives」「Empowering Lives」「Connecting Lives」のサブテーマがありますが、サイバー万博のサブテーマは「ACTION for LIVES」です。

紛争やワクチン流通のメソッドなど、社会課題を解決するにあたり様々なアクションがオープン化・オンライン化されているなかで、それらがしっかりと横断的に繋がっていかないという課題があります。

この課題に対し、例えばアクションに必要な資金があったとして、既存のクラウドファンディングなどの仕組みなどを使いながらマッチングし、サイバー万博としてコミュニティを大きくするサポートをするような試みが行えたらと考えています。

それによって万博が様々なアクションが起きる場所となり、後々にも残るレガシーとなることができるのではないか、と。

テーマ事業プロデューサー 河瀨直美氏 テーマ事業プロデューサー 河瀨直美氏
PLLクリエイター 齋藤精一氏 PLLクリエイター 齋藤精一氏
河瀨

国という概念を超えて、年齢も顔もわからない人々が繋がるということですか。

齋藤

それぞれがアノニマスな状態で繋がるのではなく、「繋がっていなかったものと繋がっていく」状態をイメージしています。

宮田

時空間をサイバーで繋ぐだけでは偏見や分断は超えられませんが、国境・空間を超えながら、国籍・性別・年齢・人種・信条など、個々が大切にしているもの同士で繋がることにサイバーを使えると非常にいいですね。

河瀨

繋がりというのは、人間の繋がりだけを指すんでしょうか。

齋藤

これは、万博の新しい価値である「いのち」が何を指すのかという点にも通じています。ステートメントに「人間/生物/地球のいのち」とありますが、すべてのいのちと調和をとり我々人間も持続可能な存在になることが重要ですから、SDGsは大きなテーマになっていきます。

河瀨

自然やいきものとの共存・共生はフィクションの世界では度々描かれていますが、そうした世界が現実社会にも起こると思うと、とてもワクワクしますね。

宮田

「いのち」についてプロデューサー間でも議論を重ねたのですが、最初のキーワードは「高齢者」で、そこから「若者」と、人間を起点に広がっていきました。現在では、無機物も含めた地球も対象にするべきではないかという意見が多数を占めています。

そのなかで生まれた鋭い問いに、「人間以外のいのちをどういう主観で語るのか」というものがありました。つまり、人間が人間以外のいのちを考えるということが人間のただの思い込みに過ぎないのではないかということです。

「人間を超える」ことはそんなに簡単ではありません。ひとを中心にする世界というのは聞こえはいいですが、それぞれの思い込みをぶつけ合う世界に戻ってしまわないか。それで対話は成立するのか。

人間同士ですら様々な挫折・苦悩・わかりあえなさがあるわけですが、それでも「灯火を消さない」ということは共有できるはずだ、という概念からSDGsは始まっています。その積み上げてきた人類の対話をリスペクトしたうえで、持続可能性をどう考えるかは重要だと感じます。

空間と時を超える、繋がりのデザイン

齋藤

藤本さんは物理的な会場の設計をされていますが、今回の万博の在り方についてはどのように考えていますか?

藤本

ネットによって繋がることが当たり前になるほど繋がりの実感は薄れていき、ネガティブな感情が増幅されるという、なんともいえない閉塞感を感じます。そうした時代のなかで、 物理的に集まるという昔ながらのフォーマットがあの小さい場所で世界規模で行われる。この不思議さがおもしろいですよね。

そのおもしろい状況を増幅できないかを万博会場のデザインでは意識しました。リング状の大きな屋根は「世界中から集まったひとがここに存在する」ことを象徴し、屋根に登れば空だけが見える構造は、「世界中とこの広い空を共有している」という実感を生み出す意図があります。

この空が広いと感じるのは、地球の裏側や異なる文化圏に思いを馳せる人間の想像力にもよります。これもひとつのバーチャルな繋がりともいえますよね。ですから、場所は限定されているけれども、想像力がその外に広がるような万博になるといいなと感じます。

例えば、サイバー万博に15億人同時接続しているのを、拡張技術を使って現地でも感じられるようにするなどして、ひとの繋がりを体験する場のデザインができたら、なかなかにおもしろいですよね。サイバーのポテンシャルを実感できるようなインターフェースを建築に組み込むというか。

宮田

建築家は究極のフィジカル領域の職業のひとつですが、バーチャルの場も視野に入れてデザインすることも大切になってきますよね。

齋藤

そうですね。メタファーとしての空間がリアル・バーチャルの場にどう相互作用しながら現れていくのかは、考えていく必要があると思います。

宮田

これまで建築は、パーソナルスペースとパブリックスペースを区切ったり、権威をかたちにして畏怖を与える、あるいは自然と人間を切り分けるものでした。しかし、自然をデザインのなかに組み込みながら、人と社会、人と世界、人と人をどう繋がるかをデザインすることが重要で、藤本さんがデザインしたリングは、それを象徴する建築の新しい在り方ですよね。

齋藤

実体はないけれど、気配をフィードバックできるフィジカルな場所というのも大事になりそうです。

河瀨

わたしたちがまだ出会ってないものに出会いにいくという意味では、「過去」や「時間」もその入り口かもしれません。

万葉集で詠まれている和歌のなかに、すでにサイバー的な感覚があったりするんです。この時空を超えたスケール感からヒントを感じることも重要なのではないでしょうか。

宮田

1000年以上前に世界の美しさを掴んだ万葉集などには普遍性がありますよね。長い年月を経たものを通じて世界を感じたときに、また美しく響き合うものがある。これもまた目に見えないものですが、繋がりのデザインという意味においては、「過去」もサイバー万博を考える上での重要な要素といえますよね。

テーマ事業プロデューサー 宮田裕章氏 テーマ事業プロデューサー 宮田裕章氏
会場デザインプロデューサー 藤本壮介氏 会場デザインプロデューサー 藤本壮介氏