EXPO PLL Talks

持っているものだけでなく、持ってないものを共有する

齋藤

これまでは、8人のプロデューサー等に参加していただき、ディスカッションしてきました。河瀨直美さん、宮田裕章さん、藤本壮介さんを招いた第1回では、サイバー万博(仮称)のサブテーマである「ACTION for LIVES」について/世界をより良くする方法を考えて行ったアクションがレガシーになるには何が必要か/繋がっていなかったものを文化・言語を超えて繋げていくことの重要性/繋がりのデザインで重要な「過去」「未来」/さらに「生」と「死」について議論しました。

第2回では、石川勝さん、堺井啓公さんを招き、何より万博は楽しくないといけない/リアルとバーチャルの価値が等しくなる中でリアルの価値をどのように出していくか/会期前から小さなコミュニティがある万博をつくるには/異なる価値観同士の繋がりを生むキュレーションの力の重要性/国境のない新しい出会いをつくるサイバー万博(仮称)の役割/言語を超えて誰でも発信できる場にするには/失敗してもいいから実験することといったことが語られました。

第3回では、中島さち子さん、石黒浩さんとともに、50年先の目標になる万博にすること/万博の社会的役割/人間社会をどうデザインするか/サイバー空間によってアイデンティティを複数持つことが何を意味するか/リアルとバーチャルの間にあるレイヤー構造が「サイバー万博(仮称)」といった議論に発展しました。

第4回で対談を行った落合陽一さんとは、メタバースの入り口を備える必要性/イデオロギーフリーな場所の設計/2025年の万博は遅れてきた日本のデジタルの最終結節点となること/イベントではマイルストーンとして捉えること/参加する方々にとっての投資価値の換算の仕方/俯瞰的な視野の重要性などがトピックとなりました。

これらを通して、いのちのためのアクション(ACTION for LIVES)をテーマに加える/万博のバーチャルとリアルを繋がる・間を埋めるプラットフォームであること/繋がっていなかったモノ・事・人・思想を繋げるプラットフォームであること/国や言語圏という概念を持たないプラットフォームであること/世界中すべての人が参加できること/大小様々なコミュニティが混在できる場所であることが、サイバー万博(仮称)に重要なことではないかと感じています。

滝澤

ざっくばらんに申し上げると、これだけ価値観が多様化する中で、政府が全ての人に対する正解を提示するということが不可能になってきました。地球を次の世代にどのように残していくのかを様々なコミュニティの人々が主体的に考える。万博がそうした場になれれば非常におもしろいと思います。

岩田

大阪・関西万博の誘致が決定してから、「こんなことをやりたい!」というアイデアが多く集まっていて、「万博が来るんだ」という余韻のような、みなさんの期待のようなものをひしひしと感じます。

一方、現実的に考えると、これから場所と時間の奪い合いが始まります。なるべく多くの方々に参加していただくために試行錯誤しますが、結果的に難しいケースも出てきてしまう。しかし、サイバー万博(仮称)がこの悩みを一気にクリアしてくれますよね。

場所と時間の奪い合いがあると、それぞれがお願いをする/される立場になってしまいますが、そうした制約がなければ同じ方向に向かって話し合いができる。それは非常に魅力的です。

齋藤

すべての答えを国/行政/協会が持っているわけではなく、一緒に考えていかなければいけないですよね。ソフトウェア・ハードウェア、IP、スキルセットなど様々ですが、PLLは「自分の持っているものを持ち寄る」だけでなく「ないものを共有する」ことも意味します。

EXPO PLL Talks #001-004 CYBER EXPO まとめ EXPO PLL Talks #001-004 CYBER EXPO まとめ

共創を生み出すプロトコル

岩田

言葉の壁というのも非常に大きいですから、リアルだと同時通訳などの制約がありますが、サイバーはその制約を乗り越えやすいですよね。私はアジアでの海外駐在経験が長いですが、英語が第2言語となっている場合も多いですから互いに第2言語同士で話せる安心感というのは大きい。しかし英語圏の国に行くと、「うまく伝わってないのではないか」と自己抑制してしまう部分がある。サイバーがそれを取り払うひとつの実験場になれたらいいですね。

齋藤

このセッションはTwitchでも配信しているんですが、2025年の万博についてコメントしてくれる海外の方も多くいらっしゃいます。言語の壁を乗り越える事で様々なことがクリアできますよね。

単純に翻訳エンジンをつくるという話ではなく、音楽など表現の共有を最大化するというやり方もありますよね。次のEXPO PLL Talksのゲストはグローバルでアカデミックな音楽イベントをやっている方(MUTEK Japan)でもあるので、そういった方々の視点もサイバー万博(仮称)に取り入れていくべきです。「グローバル」を考える時に、考えているのはほぼ日本人という会議体が往々にしてありますから。

また、すべてをゼロからつくる必要はありません。既存のSNSやプラットフォームを有効活用するべきですし、国内でも様々な企業が開発・取り組みを行っている。日本はどうしても共創より競争になってしまう。「A社では使えるけどB社では使えない」といった形ではなく、万博の時だけ同じプロトコルに合わせてみんなでつくっていくのも、試みとしてはアリなのかなと思います。「そんな簡単じゃない」とはよく言われますが。

滝澤

万博はオリパラの次に控えるナショナルイベントです。「万博はオワコンだ」という人であっても、「この指止まれ」が可能なイベントであることを認めてくれるところがありますし、利害関係を越えて共創するきっかけになるイベントでもありますから、既存のものを同じプロトコルに合わせて活用していくことは非常に重要な観点だと思います。

シリコンバレーにいた時は、国内では競合関係にある会社たちが、共創関係になることをよく目の当たりにしたんです。帰国後にそうしたネットワークを国内で生かして活躍されてらっしゃる方も多くいらっしゃいます。万博を、こうした新しい価値やネットワークを生み出すプラットフォームにしていきたいですね。

岩田

モノを売っている時代に競合していた会社が、コトを売る時代になると良い相乗効果を生むパートナーになることは既に多く生まれています。1970年の万博では、博覧会協会は場を提供する、ある種の触媒の役割を果たして新しいことがどんどん生まれていった側面があります。博覧会協会がどことどこを繋げる、ということはもちろんあっていいですが、ネットワークがどんどん増殖していくことが重要で、それは既に起きつつあると感じます。

齋藤

万博が独自につくれるコンテンツはそんなに多くありません。様々な領域の方々にどんどんプロトコルを合わせて繋がってもらい、何だったらビジネスをやってもいいんじゃないかと思うんです。それをサイバー万博(仮称)で試していきたいですし、参加していただく方々にも、万博を実験台として使っていただけたら嬉しいですね。

2025年以降の、万博の価値

齋藤

ミラノ万博に携わった時に感じたのは、ミラノでは盛り上がっているけれど、日本ではあまり知ってる人がいないことでした。せっかくグローバルカンファレンスをやるのであれば、 各国の人々が開催期間に集まって、そこで話して決まったことを世界に対して露出していく場所にするべきだと思うのです。ともすれば、「何かを決めてアクションをしていく場所」になることが万博の価値なのではないかと思うのですが、グローバル目線で見た万博の役割をどのように捉えていらっしゃいますか。

岩田

私は少し異なる考え方を持っていて、みんなで何かを決めることができたら素晴らしいなと思いながらも、価値観が多様化する中で、みんながひとつの結論、同じアクションに至ることを期待する必要はないとも思うんです。100人いれば100通りのソリューションがある。今回8つのテーマを設けてそれぞれのプロデューサーをお呼びしたのは、そうした想いがあるからです。

これまでの万博は、どちらかというと「ゴール」や「未来」を示すものでしたが、より不確実性の高いこれからの社会では、そういうことが難しくなっていきますよね。では万博は何を示すことができるか。それは、課題を共有するだけでなく、どうすれば自分のアクションに繋げることができるかだと思うんです。そのために、参加者にアイデアや問題意識の種を「持って帰ってもらう」ことが、万博のこれからの役割なのかもしれません。

また、1970年の万博の話をする方が今でもたくさんいらっしゃるのを目の当たりにして、自分の行動や人生を変えるきっかけをつくることが万博の意義だとも感じます。ただ、それをどうすれば実現できるかは、現在進行形で悩んでいるところですが。

滝澤

数千人単位の人々がフィジカルに集まり、さらにサイバー万博(仮称)によって、その何倍もの人々にリーチできる可能性がある。すると、ターゲットというのはあらゆる価値観を持った人々になるわけですよね。地球をより良くするための行動は個々人が自から発動するものだと思いますから、お祭りごとに集まった人が、個々の問題意識とアイデアを組み合わせてアクションに繋げていけることが重要です。そうしたことを感じていただく機会を提供するのが、今後の万博を見据えた価値だと思います。

齋藤

チャットのコメントでは、「万博会場には世界各国の方々が集まるので、そこにいけば世界旅行しているように感じることもできる」「6ヶ月間集う機会を活かして、新たな社会づくりのための思考ができるといい」「その仕掛けをバーチャルがサポートできる」という意見がありますね。また、「災害やパンデミックなど現実のほうが想像力を追い越してしまい、気持ちを立て直すのが大変だ」という声もあります。

つくり続ける万博というのは、現実的にはなかなかハードルの高いものです。ただ、何が起きるかわからない今後の世界で、つくり続けるというのは大きな価値になるかもしれません。僕は「2025年のテクノロジーはどうなるのか」ということをよく聞かれますが、正直に言うとわからないのです。

日本が備えているアイデアの種を共有する

齋藤

経産省が主導している日本政府出展事業(日本館)基本構想が4月に公表されましたが、日本館の役割はどのようなものでしょうか?

滝澤

役所に入ってからの20年を遡っても、これだけ自由につくったものはないと思います。非常にワクワクする方々に有識者として参画いただいて、ガチンコの議論をしています。

こういう場では役人が議論の場をオーガナイズして参加者はあまり前に出ない空気になりがちなのですが、私たちは一歩後ろに引いて、議論を見届けているかたちになっています。地球環境が難しい局面にある中、日本館での体験によって行動変容を促すためのストーリーが徹底されているのです。

欧米の文化と異なり、日本には、人間と様々なものが共生して関係を育んでいるアニミズム的な文化がある。違った自然との付き合い方を日本人は考えてきた側面があると考えているのですが、そうした日本的な良さを日本館で体感していただけるものをつくりたいですね。

齋藤

サーキュラーでサステナブルなエコシステムが、古来より日本らしいかたちで全国津々浦々に存在します。これらは海外で多くの調査が行われていたりもするのですが、日本の方々も知るきっかけにしたいですね。「日本人が日本のことをよく知るための万博」でもあるのかなと思います。

岩田

そうですね。日本館は大阪・関西万博のキラーコンテンツでもあるので、おもしろい試みを期待しています。万博は国際イベントなので、万博全体でお国自慢をしだすとローカルイベントになってしまいますし、とてもつまらない。ユニバーサルなイベントとして、様々なソリューションが日本にもたくさんあるということを、家に帰った時にふと気づいてもらうのが隠れたミッションです。一方、日本館は、日本の凄さを堂々と打ち出すのがミッションなので、日本館の取組みは非常に楽しみです。

齋藤

SDGs、世界共通の課題とともに日本が世界に先んじて直面する少子高齢化などの問題に対するノウハウをオープンソース的に共有することも重要ですよね。

また、こうしたことを共有する「触媒」になり得るのは、様々なデザインに関わる人たちなのではないかとも感じています。無形物は共創のかたちをとりやすいという話も先ほどありましたが、家具・マテリアル・造形など、実はデザインは日本が非常に長けている分野です。

加えて、災害後の規律について「日本はどうやって教育しているのか」と聞かれることがあるのですが、あれは教育ではなくDNAに近いものだと思うのです。そういう世界のソリューションの種になる、日本独自のものをどんどん引っ張り出して、デザインの力も借りながら共有していくべきです。

滝澤

「万博2.0」のような取組を実現するにはとても高いハードルがありますが、「自分もこういうことをやってみたい」という方々に、このうねりに参じていただき、共創の万博への道をともに歩みたいですね。

岩田

最初の万博を大成功したアルバート公の名前がついた文化施設がロンドンにたくさんあると聞きますから、「万博2.0」を成功させて、齋藤さんの名前のついた文化施設が日本中にできたらいいですね(笑)。

この仕事に携わって嬉しいのは、多くの方々が万博の仕事を快く引き受けて下さること。そうした素晴らしいコンテンツに携わらせてもらっているので、高い期待に応えられるような万博にしたいと思っていますし、無限の可能性を秘めるサイバー万博(仮称)がこれから立ち上がってくれば、より多くの人々に関心を持って参加していただける空間をつくれると思います。

齋藤

「日本館の基本構想が公開されているのであれば、気づかれないのはもったいない」というチャットのコメントもありますね。こちらからぜひご覧になっていただけたらと思います。

大阪・関西万博での議論は非常に素晴らしくて、議事録にしっかり残されています。そういったデータをソート化、インデックス化して共有することも、サイバーの重要な役割になってくると思います。

齋藤 精一氏 プロフィール

齋藤 精一氏
EXPO PLL Talks ファシリテーター
パノラマティクス 主宰 / PLLクリエイター
齋藤 精一

1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。フリーランスとして活動後、06年株式会社ライゾマティクス(現:株式会社アブストラクトエンジン)を設立。16年から社内の3部門のひとつ「アーキテクチャー部門」を率い、2020年社内組織変更では「パノラマティクス」へと改める。
2018-2020年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。