EXPO PLL Talks

EXPO PLL Talks #007 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性― EXPO PLL Talks #003 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性―

大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するためのコンセプトである「People’s Living Lab(PLL、未来社会の実験場)」。

このコンセプトのもと、多様な実践者や有識者が、それぞれの立場からテーマに関する取り組みを国内外へ発信し、万博を共に創り上げていく場として、オンライントークイベント「EXPO PLL Talks」がスタート。「新しい万博の価値 ―サイバー万博(仮称)の可能性―」をテーマに、これまで様々なゲストを迎えて議論のプロセスを公開してきた。

第7回目となる今回は、パノラマティクス 主宰・PLLクリエイターの齋藤精一氏をファシリテーターに、経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ博覧会推進室長の滝澤豪氏、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 経営企画室 室長の岩田泰を迎え、中間取りまとめを行いながら議論を行った。

EXPO PLL Talks #007 サイバー万博(仮称)が、
共創を生む「触媒」となるために必要なもの

「アイデアとの出会い」に立ち戻る

齋藤精一(以下、齋藤)

これまで「サイバー万博(仮称)とはなんぞや?」という話をゲストの方々と行ってきましたが、今日は2025年大阪・関西万博の中間取りまとめ的な内容で話していけたらと思います。まず自己紹介をお願いします。

岩田泰(以下、岩田)

博覧会協会とは大阪・関西万博の準備・開催・運営を行うための社団法人です。万博の準備の中核を担っています。

私は経営企画室に所属し、コンテンツをつくったり、危機管理計画や海外との調整を行ったりする個別事業を担当するのではなく、万博事業全体の調整をする立場にあります。私自身はもともと経済産業省に入省し、10年ほど前にも万博を担当していたことがあります。

滝澤豪(以下、滝澤)

私は経済産業省で大阪・関西万博やドバイ万博の準備を行っています。予算確保や関係各省庁との連携など、全体のコーディネートを行っています。岩田さんをサポートする立場ですね。

過去にシリコンバレーに数年滞在し、環境エネルギー分野で日本企業のビジネス支援などを行ったり、環境省に出向して環境問題を担当したり、知的財産政策を担当したり、みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)のプロジェクトマネージャーをしたりしてきました。

齋藤

ありがとうございます。大阪・関西万博からちょうど100年前の1925年にパリ万博が開催されましたが、当時日本は工芸館を出していたそうです。この時、中川政七商店の13代目会長・中川政七さんの曽祖父が出展されていたそうで、パリで見たものに影響を受けたようです。万博は、こうした「アイデアが出会うこと」に立ち戻ってもいいのではないかと感じています。

せっかく世界に発信する機会があるのですから、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもとデザインにしっかりフォーカスしながら、新しい思考やアイデアを提示していければと思います。

経済産業省商務情報政策局 商務・サービスグループ博覧会推進室長 滝澤豪氏(左), PLLクリエイター 齋藤精一氏(中央), 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会経営企画室室長 岩田泰(右) 経済産業省商務情報政策局 商務・サービスグループ博覧会推進室長 滝澤豪氏(左),
PLLクリエイター 齋藤精一氏(中央),
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会経営企画室室長 岩田泰(右)

一人ひとりが「自分の万博」をつくれる万博に

齋藤

今回は「新しい万博の価値─サイバー万博(仮称)の可能性─」をテーマに中間取りまとめを行いたいと思いますが、これまで多くの方から挙がった「PLL(People’s Living Lab)とは一体何なのか」ということについて、まず話をしたいと思います。

大阪・関西万博の事業コンセプトは「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」で、万博全体のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」となっています。また、サブテーマを「Saving Lives(いのちを救う)」「Empowering Lives(いのちに力を与える)」「Connecting Lives(いのちをつなぐ)」としています。「People’s Living Lab」は今回の万博を非常に体現していると感じるのですが、岩田さんはどう捉えてらっしゃいますか。

岩田

何かを訴えかける時に、文字だけで説明してもわからないものをどうしたら人に印象を残し、持ち帰ってもらえるかがポイントだと思うのですが、その時に来場者が「勉強しに来る」のではなく、「楽しみに来る」ことが重要です。それがこのコンセプトに凝縮されていると思います。

それがしっかりとできるかはこれからの大きなチャレンジですが、それが実現できれば、きっと参加者がワクワクを感じて、何かを持って帰ることができる万博になるはずです。

滝澤

これまでのどの万博も、「新しい万博」を追求してきたと思います。万博が、参加者がポジティブな感情を持ち帰った結果、地球が変わっていくような、ムーブメントを起こす媒体になるといいですね。

私はつくば万博世代なんですが、少し先の未来を感じられる体験をして、日本の凄さや希望を抱いた人間のひとりです。ぜひ若い方々に足を運んでもらって、勇気や元気、ある種の願いのようなものを抱いてほしいです。

齋藤

パンデミックを経て感じたのは、あるべきものがない、やれると思ったことができなかったということです。悔しい思いや大変な思いをされている方がたくさんいらっしゃいますし、これだけ「テクノロジーやDXだ」と叫ばれていても、できないことが山のようにあることを多くの人が感じたはずです。

コロナ以前は東京オリパラもあっていけいけどんどんというか、都市開発を進めて、インフラを整備して、インバウンドにも力を入れていましたが、コロナですべて止まってしまいました。未来を問い直してつくっていかないといけないフェーズにある今、PLLはまさに必要な考え方であり事業のあり方であるように思います。

滝澤

「失敗も当然」と考えて、様々な参加型の取り組みを行いながら実験をしていきたいですね。

岩田

そうですね。日本語の博覧会という言葉は、英語のExposition、Exhibitionとは少し意味合いが違います。「色々なものが見られる」というのが「博覧」で、それにみんながワクワクするのだと思います。

今の時代の博覧会を考えることは、「今私たちがワクワクするものは何か」を考えること。PLLという言葉はコロナの前から決まっていたので当時の思いは今とは異なりますが、今なりのワクワクするものが万博で見られること。それが何なのかは、PLLのコンセプトのもと、参加いただくみんなで考えながら実現していきたいですね。

齋藤

たくさんの企業が参加している共創チャレンジなどを行う「TEAM EXPO 2025」プログラムも既に始まっていますよね。

滝澤

「チームU15防災」をはじめ、既に200件弱の取り組みがあります。「万博」をキーワードにして「TEAM EXPO 2025」プログラムで議論・活動を行い、一緒に万博をつくっていただけるととても嬉しいです。

岩田

「万博に参加したいけど、どうしたらいいか」と聞かれることもよくあって「TEAM EXPO 2025」プログラムの取組みを始めたのですが、「自分の万博」を一人ひとりがつくれるプラットフォームにしていきたいですね。これがどう育っていくかは私たちにも未知数なのですが、様々な人が参加した結果つくられるのが万博だと思いますので、どんどん参加してほしいです。

齋藤

万博の開催期間は半年間ですが、打ち上げ花火的なイベントではなく、開催のかなり前からスタートしているというのが今回の万博の大きな特徴だと思います。民間の立場としては、これを契機に、これまで繋がらなかったものを繋げ、新しい何かを生み出してアウトバウンドのサービスをつくるなどの結果に繋がればいいですね。

ドバイ万博はコロナの前にデザインされて、工事も終わりに近づいていましたが、今回(大阪・関西万博)はパンデミックの最中に基本計画が策定されましたから、パンデミックを経て何を考えるべきかを検討することができます。

“もうひとつの万博”は、何を繋ぐべきか

齋藤

大阪・関西万博は、155ヘクタールの夢洲会場にパビリオンや未来社会ショーケースなど様々なものがつくられていくリアル会場と、バーチャル夢洲会場、さらにリアル+バーチャル会場があります。

また、万博とは一体何なのかと考えた時、リアルとバーチャルでは表現できないものを表現するために、独自のテーマを設けた「サイバー万博(仮称)」も必要だと考えました。

パンデミック、SDGsという世界共通の様々な課題の解決が必要な中で、グローバルとローカルを繋げて、知恵や技術、手法を持ち寄って実行し、人間や生物、地球の命を持続させるための「もうひとつの万博」にしたいと考えています。地球上すべての人が参加可能で、国境なく対等に出会い、楽しみ、学び、共有し、次の行動を始めることができるオンラインのみで開催される万博。「サイバー」という名前が適切かは議論が必要ですが、2025年に先駆けて始動し、2025年以降も自走できるプラットフォームを構築するのが理想です。課題解決できるアイデアとファンディングなどが、データドリブンでマッチングして繋がる場所を目指しています。

岩田

私たちは、興行主としてリアル会場をどのようにつくっていくかがミッションではあるのですが、サイバー万博(仮称)によってこれまで手が出なかった取組みができるのは素晴らしいことですよね。

滝澤

2005年の愛・地球博のテーマである自然の叡智から、地球規模の課題をどう考えていくかが万博の大きなテーマとなりましたが、参加者が受け身になるような「来たら学べる」取り組みから、会期前から色々な思いが交錯して「参加」してもらえる、さらに会期後も引き続きアクションが続いていく「万博2.0」のようなあり方を目指して取り組みたいですね。時間も空間も超えて、今すぐコミットできるサイバー空間でトライできると、大阪・関西万博の意義も強まっていくと思います。

岩田

1851年にアルバート公がロンドンで万博をスタートさせてから、万博のフォーマット自体は大きく変わっていません。もしかしたら、万博がサイバー空間を使うことによって、参加のコストが下がり、それによって新しいことができる可能性があります。

様々なハードルから現在のフォーマットはすぐには変えられませんが、万博とは別の万博が実現すれば、それが次の時代の万博のフォーマットになる可能性も秘めています。構想段階ですが、いくらでも化ける可能性がありますよね。

齋藤

国威を発揚する目的から、ユニバーサル、食、モビリティ、人のあり方、自然など、万博のテーマは変容してきたと思うのですが、様々な国の方々と仕事をする中で感じたのは、びっくりするくらい考え方や悩みが同じだということです。

彼らと話すと、日本は文化・技術・デザイン・哲学・思想など非常に尖っていて評価できることも多くあると感じますし、同時に遅れている部分もある。だからこそ、サイバーというあり方が、双方を繋ぐことのできる可能性があると思います。