甲子化学工業株式会社
2025.03.12
「ホタテの貝殻をアップサイクル」ベンチ作りで世界の廃棄物課題の解決をめざしてVol.3
5人掛けの「ホタベンチ」

万博出展に向け「ホタベンチ」作りは最終段階を迎えていた。試作を重ね、5人掛けロングベンチとなるデザインに昇華させた。「4、5種類の候補を考え、その中から採用しました。来場する家族やグループが一緒に憩うことができる点が決め手です」と南原。最も高いところで約1mある背もたれはやわらかな曲線で、どこか貝殻を思わせる。ロングベンチは5つの椅子に分割可能だ。

大型3Dプリンターで造形する際の特徴であるしま模様「積層痕」を表面にあえて残し、最新技術を肌で感じてもらえるようにする計画だ。座面や背もたれ部分は表面を研磨することで手触りの良さも両立させた。小川は「色目はオフホワイトにする予定ですが、顔料の種類や濃淡で30色ほどのバリエーションがあり、5脚を別々の色にしてカラフルにもできます」と話す。

最終形にたどり着くまでの道のりは平坦ではなかった。砕いた貝殻の配合比率などで試行錯誤した。万博会場へ提供するベンチでは、北海道猿払村などオホーツク海沿岸のものだけでなく、新たに青森県の陸奥湾で育つホタテの貝殻を混ぜることにしている。机上の計算でうまく固まるはずでも実際は違う。セメントや水と混ぜて積み上げていくと重みで崩れてしまう。「ホタテの種類や育成方法の違いから特性が微妙に違うんです。配合に苦労しました」と小川。どんな貝殻でも対応できるようにするのは、産地の人たちの期待に応えるためにも越えねばならないハードルだ。世界中の貝殻をアップサイクルしてゆくための生みの苦しみといえる。

南原は「貝殻の活用は数十年前から試みられてきたものの、コスト面ではね返されてきた。3Dプリンター技術との組み合わせで、ついに突破できた」と振り返る。小川も「コンクリートに用いられる良質の砂は資源に限りがあり、貝殻はその代わりになりうる」と期待を寄せる。南原らは今、ホタベンチを手始めに、地形や景観にあわせてカスタマイズしたベンチを各地の野外公園に設置する構想を抱いている。まずは万博会場を訪れる人たちに見て、触れて、感じてもらい、ひとりでも多くの人に「面白いことが始まっているな』と思ってほしい。 “やっかい者”扱いされてきた貝殻が、私たちの身近な造形物のあれこれに生かされる時代がそこまで来ている。

ホタベンチの試作品
大型3Dプリンターによる造形の特徴である「積層痕」

この記事をシェアする