丸紅株式会社
2024.02.29
「何度でも生まれ変わる循環型食器」 一人の社員のひらめきが開発につながる Vol.1
循環型食器「edish(エディッシュ)」

小麦やカカオ、果物の皮などの食品廃材が、独自技術で食器によみがえり、最後は肥料となって動植物の栄養となる。こんな何度でも生まれ変わる循環型食器が、大阪・関西万博の会場で使用される。大手商社「丸紅」の一人の社員のひらめきが、プラスチックの使い捨てを減らしたいという熱意につながり、実を結んだ開発ストーリーに迫る。

2019年春、パッケージ事業課担当課長の簗瀬啓太は、取引先の音響部品メーカー「プラス産業」(静岡市)を訪れた際、気になる技術に出会った。紙の原料となるパルプ(木質繊維)をどんな形にも成型できる「パルプモールド」という独自技術で、紙以外の素材を混ぜて加工することも可能という。ちょうど、顧客の製粉会社から大量に余るふすま(小麦の表皮)の使い道を相談されていたところだった。

パルプとふすまを原料に食器に加工し、プラスチック容器の代わりにできないだろうか。海洋プラスチック問題が深刻化するなか、使い捨てされない素材の検討を進めていた時期でもあった。二つの懸案事項が一挙に解決でき、新しいビジネスの種になる予感がした。

簗瀬は会社に戻ると、その日から日常業務の合間を縫い、循環型食器のアイデアを練り始めた。使った後は、食器の残飯ごと回収し、粉々にしてから発酵させ、堆肥(たいひ)にする仕組みにしよう。そうすれば、食べ残しの食品ロス解消に一役買えるほか、最終的に食材を育むことで命そのものを循環させることができる。構想は定まった。

次に、事業化の予算獲得のため、前年から始まった全社員対象の「ビジネスプランコンテスト」に応募することにした。早速、プラス産業に製作の協力を依頼。素材がもつ色合いや模様を生かし、シンプルでおしゃれなデザインに仕上げた。そして、名称は「edish(エディッシュ)」に決めた。着想のヒントになった「ecological(自然環境との調和)」「ethical(倫理的)」「economical(無駄のない)」の三つの頭文字からとった。

簗瀬のプランは、12か国114件の応募のなかから2回の選考を勝ち抜き、最終審査に進む9組に残った。そして迎えた、20年1月16日の最終プレゼンテーション。東京・日本橋のイベントホールの客席には社員約400人が詰めかけていた。簗瀬は試作品を手に、ブラッシュアップしたプランについて熱弁をふるった。社外専門家の審査員と社員による投票の結果、事業化に挑戦できる3組に選ばれ、テストマーケティングや研究開発費用を見事に勝ち取った。審査員からは「世の中の潮流を捉え、広がりが感じられる」と称賛された。

「人生でこれほどやり遂げられたと思えたことはなかった」。自分のアイデアをゼロからビジネス化して社会課題に挑みたいという、入社以来の夢の扉が、15年目にして開いた瞬間だった。

Vol.2に続く

丸紅 パッケージ事業部 簗瀬 啓太 さん
食品残渣(生ごみ)から堆肥を製造する様子

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