161の国と地域が参加する予定の大阪・関西万博で、多くの人が目にするサインスタンド。案内や誘導、告知などが目的のサインスタンドは、それ自体が目立つものではない。しかし、何を素材に用いて表現するかで、その意味は大きく変わる。金沢市に本社を置く金森合金は、自社が培ってきた循環型ものづくりで、災害廃材を活用し製作に挑む。
金森合金は、1714年に創業。加賀藩の2代目藩主・前田利長が産業振興として「高岡鋳物」を興す際、全国から招集した御鋳物師七人衆の一人に、大阪にいた金森弥右衛門がいた。その後数代を経て、鋳物商「釜八」を興したのが創業年にあたる。前田利長に召された時代から数えると、慶長から令和まで400年余、万博が開催される大阪に起源を持つ同社は、伝統的な砂型鋳造技術を継承してきた。
砂型鋳造は、砂で作りたい形の上下の型を取り、重ね合わせて出来た空洞に溶けた金属を流し込むことで作りたい形を作る。金森合金では、加賀藩に仕えていた時代は武具や梵鐘(ぼんしょう)を作り、藩が解体されると顧客の要望に応じ機械部品を、2006年からは自社の精錬技術で純度99.99%というロケットの部品素材も供給するほど、精錬と鋳造の技術力に定評がある。
24代目として事業継承中の取締役・高下(こうげ)裕子は、「砂型鋳造は、はるか昔から一切変わっていません。地域にある金属廃材を自社の中で精錬して、ものに変えてしまう、循環型ものづくりです。地域で出た廃材を地域で利活用する<マイクロサイクル>は、鋳造の世界では長く受け継がれてきた当たり前のことです」。サステナブルが世界で叫ばれるずっと昔から、確かな鋳造技術で持続可能な社会を支えてきた。
大阪・関西万博のCo-Design Challengeの募集に高下は、「サインには、方向や情報案内に加えて、“刻印”という意味もあります。金属は循環して再生し、色々なものに変容していくけれど、前のカタチの記憶を持っていると私は思っています。地域の廃材を利活用する、鋳造のマイクロサイクルを伝えたいですね」と、サインスタンドに込めた思いを語る。
そうした中、2024年1月1日、能登半島地震が発生した。
金森合金でもアルミ合金の溶解炉の水漏れや、砂型製作の造形機が故障し型込めが出来なくなるなど大きな被害が出た。
(Vol.2に続く)
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