株式会社金森合金
2024.11.12
「災害廃材を活用したサインスタンド」伝統の砂型鋳造で記憶をカタチ作る Vol.2
金森合金敷地内に集められた能登半島地震・災害廃材の非鉄金属素材(アルミサッシなど)

能登半島地震の災害廃材は、推定で240万トンと言われる。石川県は災害廃材の金属(約2万トン)やコンクリートなど再生利用可能な約120万トンを復興資材に活用すると発表している。

Co-Design Challengeでの地域廃材のサインスタンドへの利活用は、災害廃材の利活用へと変わった。高下はすぐに動き出す。災害廃材の回収ルートを調べたが、正規の回収先がつかめない。廃材回収にたどり着くまでに約3か月を要したが、アルミサッシなどの非鉄金属素材200キロを回収。窓枠のアルミサッシに残るネジを、一つ一つ手作業で外していった。高下は、「能登の方たちが前向きになれるように、それぞれの生活の中にあった金属を記憶とともに素材として生かし、次の未来につながるようなサインスタンドを作りたい」と力を込めて話すとともに、「災害のたびに回収プロセスはアップデートされているが、回収された災害廃材の集積地情報やどこに問い合わせればいいかなどがうまく伝わっていないと感じた」。今回の取り組みを通じ、災害廃材の早期活用という課題解決も考えたいと語る。

高下は、2人姉妹の長女として金森家に生まれた。かつては火を扱う鋳造は女人禁制と言われ、祖父や父から家業を継ぐように言われたことはない。しかし「家業はどうなるのか」ということは、いつも頭の片隅にあった。東京の大学を卒業、広告代理店で7年勤めたのち、夫の都合で海外に移住。帰国のタイミングで「今しかない」と、鋳造の世界に飛び込むことを決めた。

「1年間に1000種類ぐらいの製品を作る多品種少量生産で、中には30年に1回注文が入るような製品もある。まずはアナログな工場の仕事を見える化することから始めました。そして、会社の強みを洗い出す中で、BtoC向けのライフスタイルブランド『KAMAHACHI』を立ち上げました。国内企業の99.7%を占めると言われる中小企業の一社ですが、培ってきた技術、伝統を残していくことも使命で、そのためにはBtoB領域以外で伝えていくことも重要だと思っています」。無骨で語らぬ金属に代わって、高下は言葉を添えていく。

万博期間中には、本社工場で循環型のものづくりを伝えるための鋳造体験企画も検討している。「お客様が職人と一緒に砂型を製作し、その場で精錬したアルミ合金を鋳込んで菓子切りなどを作る体験企画や、出来上がった商品を使って料理を楽しむ企画などを考えています。企画を通じて、金属の生態系を一緒に考えてほしいですね」。高下からは、次々と鋳造への思いがあふれ出る。

和菓子を食べる際に切って口に運ぶ茶道具・菓子切り(アルミ鋳物/デザイン:雉)
金森合金取締役 高下 裕子さん

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