甲子化学工業株式会社
2025.01.10
「ホタテの貝殻をアップサイクル」ベンチ作りで世界の廃棄物課題の解決をめざしてVol.2
セメントと白いホタテの貝殻を粉末状にしたパウダー

「座面はやわらかい素材にしよう」「色合いは自然なオフホワイトがいいかな」。「ホタベンチ」の試作品を前に、小川との検討をさらに重ねながら、南原は「未来のデザイン」が全国に広がっていく光景を思い描く。大阪・関西万博の会場には5脚を置く予定だ。国内外からの来場者たちに見て、触れてもらえる。そして、廃棄物に価値を見いだし、生かす「アップサイクル」のすばらしさを体感してもらえるだろう。

すでに量産のめどは立っている。「会期の後、ホタテの貝殻を提供してくれる北海道猿払村など、全国の公園に置いてもらえたら。地域に還元でき、貢献できる」。ひと足先に開発を進めている「ホタメット」はホタテの貝殻をパウダーにしてプラスチックと混ぜるが、ホタベンチは大量のセメントと混ぜる。貝殻の処理量が、ぐんと増える。

南原は、猿払村をはじめ、オホーツク海沿岸の10を超える自治体やホタテ漁の関係者を訪ね歩いてきた。どこも、うずたかく積まれた貝殻の処理に困っていた。さらに、三重県のアコヤガイ(真珠貝)養殖の関係者も、滋賀県の琵琶湖のシジミ漁関係者も、同じ課題を抱えていることがわかった。「アップサイクルできるなら、ぜひお願いしたい」と期待の声。「日本全国、いや世界中で貝殻の処理に貢献できる」と確信する。第1、2期のCo-Design Challengeに、ともに採用された事業者は甲子化学工業だけだ。審査員から「事業の確実性と地域活性の両面で魅力的」との評価を受けている。

アップサイクルのすばらしさを知ってもらうため、体験企画を東京と大阪の2か所で計画中だ。東京では、ホタベンチの制作工程の見学会を清水建設のイノベーション施設「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」(東京都江東区)で開く。高さ8メートル超の大型3Dプリンターで造形する様子を学べる。大阪では、モノづくり体験会を甲子化学工業の工場(東大阪市)で開く。親子でホタテの貝殻を砕いてパウダーにしたり、それを使ってプラスチック消しゴムを作ったりする予定だ。「ぼくら町工場が中心になって、なにか楽しいことをやっている、と未来の世代に知ってほしい」

万博への参加は、町工場にとって大きなチャンス。「未来のデザインを『どこかのだれか』ではなく『自分たち』がやる」。その思いが今、南原のモノづくりの情熱を支えている。

高さ8メートル超の大型3Dプリンター
体験企画で予定するホタベンチの制作工程(3Dプリンターの説明の様子)

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