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2015年のミラノ万博は「食」がテーマで、各国が食のパビリオンを出して、食やサステナビリティをどう考えていくのかが発信されていました。しかし、ミラノ以外では万博の開催があまり知られておらず、あまり盛り上がっていないのは課題だとも感じました。
こうした課題があるなかで、5年に1回の開催が続いている万博はどのような役割を果たすべきだと思いますか。
アメリカのBlack Lives Matterやフランスのグリーンエコノミー、ドイツのベーシックインカムの議論など、各国が社会の本質と向かい合いながら未来を模索しており、さらにパンデミック以降、未来は2019年まで見ていた世界の延長線上にはないことは明らかです。
2025年は、こうした模索を各国・コミュニティが深めた問いを持ち寄って未来を考える場にすることが重要です。
大きな経済合理性の流れのなかに飲み込まれるのではなく、世界は多様な軸で繋がっていて、中国、アメリカ、EUなど、世界中が考える未来がひしめき合って輝いていて、それらを包み込むような体験が万博の意義にもなるはずです。万博のレガシーは、未来に対する問いを深め、ともに未来をつくる体験をすることでかたちづくることができるのだと思います。
そもそも、宮田さんとわたしが何かをやるということがおもしろいですよね。万博で繋がらなければ、話すこともなかったかもしれない。石黒浩さんや落合陽一さんたちもそうです。
様々な分野の、何を言い出すかわからない個性的な人間を集めて場をつくらせてもらっているから、一度プロデューサーが集まると一触即発の状態になることもあります。
考え方のアプローチが真逆だけど、お互い学び合うことのほうが多いですよね。
そう。アプローチは違っても歩み寄れるひとたちなんですよ。落合さんが「今回集まったのはそれぞれの分野で自らのスキルを活かしてより良き世界を見出そうとしている人間が多い」と言っていました。そうしたひとたちが集まると、自分たちが言いたいことをそれぞれ言うんだけれども、次第に同じ方向性に集約していくんです。
藤本さんがデザインされた、すべてのパビリオンにアクセスできるリング状の大屋根は、そうしたわたしたちの循環しあえる関係を見出してくれているような気もします。
場の非中心性だったり、様々なところに中心があって響き合うように存在していることが、いま人々が確認し合わなきゃいけない感覚なのではないでしょうか。
今回の万博は、1970年の万博のようにパビリオンが競うように存在やデザインをアピールするのではなく、それぞれがフラットに、手を繋ぎ合っていることが重要なイメージになるはずです。
また、「いのち」をテーマにするとき、「生きること」と「死ぬこと」の双方を考えることも、万博の役割としてあるように思うのですが、河瀨さんはこれについてどのように考えていますか?
日本では、古来より山の高い位置に御神体があったり、山々を神として捉えたりしますが、有限である生命の先にあるものを象徴しています。また、「あちら側」にいる先祖や神が自分たちを守ってくれ、時空や過去を超えて生き続けている。これらはイメージでありストーリーですが、そのストーリーにリアリティがあることで、わたしたちが生きるリアリティと直結するのだと思います。
大阪の話でいうと、かつて四天王寺は西の海に沈む夕陽を見ることができたといいます。そこでは日の入りは生と死の交わりを連想させ、その夕陽を拝みながら極楽浄土を観想する「日想観」という修行が行われていた。
藤本さんがおっしゃる世界との繋がり、河瀨さんがおっしゃる時間や歴史との繋がり、齋藤さんがおっしゃる生死との繋がりを彼岸のなかで感じるというストーリーが、1000年以上前からこの土地にある。このストーリーをサイバー万博の仕組みと結ぶことで感じることができたらいいですよね。
そうですね。様々なスケールを飛び越えられ、また残り続けることもサイバーの利点です。
会場でつくったものをそのまま残せるのかというと難しいのですが、サイバーでつくったものは、ともすれば今後の万博にも引き継いでいける可能性がある。
世の中をより良くする方法をみんなで考え、その考えを持ち帰って各国の文化圏でアクションを起こしていくことで、万博が本当の意味でのレガシーとして残っていくのかもしれません。
これはまさにサイバー万博のサブテーマである「ACTION for LIVES」に繋がる話ですよね。
僕たちがいくつかの企業と考えていることのひとつに「Future Tag」というものがあります。現在、自分が買った商品が何でできているのかは「原材料」でしか表示されません。しかしテクノロジーを使うことで、商品を食べる・使用することで誰が豊かになるのか、別の場所で搾取が行われていないか、あるいは健康、地球環境など様々な情報を商品表示する仕方を提案しているのです。
未来との約束、未来との繋がり方のデザインをサイバー万博に埋め込んで残していく。過去と人々を繋ぎながら感動を与えると同時に、未来と繋いだうえでひとりひとりが知りながら生きることで世界の輝きに繋がるのだと考えてもらうことが重要です。現代では、ひとは情報に押し潰されて無力さを感じてしまいがちですが、そうではないのだと。
わたしのルーツである奄美大島の言葉に、「ものごとを起こす時は、7代先のことを考えて起こせ」というものがあるんですが、これはとても大切ですよね。自分に見えない未来のことを思って行動を起こすことは、まさにサイバー万博のテーマなのかなと思います。
テーマ事業プロデューサーはフィジカルな領域が中心になるのですが、それにとどまらないバーチャルの話をしていると、いくらでも際限なくできてしまう。これは本当に大変だなぁと感じてしまいます。
事業コンセプトは「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」で「共創」がキーワードですから、他力だけでもなく自力だけでもなく、お互いに交わりながらつくっていくプラットフォームであることが重要だと思います。
博覧会協会ですべてをつくるのは無理ですし、すでにコンテンツを生み出したりアクションを起こしている方々がしっかりと関わり合えるようにしていきたいですよね。
ですから、2025年に向けて今から少しずつスタートしていく必要があります。「サイバー万博」という言葉にしても、きちんとそれで良いのかなどを考えていかなければいけない。
プロデューサーとして口火を切ったり会話の種を蒔いていきますが、加えてサイバー万博では様々なところと繋がれる仕組みをつくっていこうと考えています。
万博をひとつのきっかけにしながら、未来に向けて何をつくるのかを、企業や参加者の方々と可能性を探っていきたいですよね。
そうですね。今回は答えがない問いを多く投げかけましたが、気づきが多かったですね。「EXPO PLL Talks」は継続していきますので、様々な方向から万博を考えつつ、今からどんどん実装をしていけたらと思います。
1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。フリーランスとして活動後、06年株式会社ライゾマティクス(現:株式会社アブストラクトエンジン)を設立。16年から社内の3部門のひとつ「アーキテクチャー部門」を率い、2020年社内組織変更では「パノラマティクス」へと改める。
2018-2020年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。