EXPO PLL Talks

EXPO PLL Talks #002 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性― EXPO PLL Talks #002 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性―

大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するためのコンセプトである「People’s Living Lab(PLL、未来社会の実験場)」。

このコンセプトのもと、多様な実践者や有識者が、それぞれの立場からテーマに関する取り組みを国内外へ発信し、万博を共に創り上げていく場として、オンライントークイベント「EXPO PLL Talks」がスタートした。

緊急事態宣言のさなかに開催された第2回は、パノラマティクス 主宰・PLLクリエイターの齋藤精一をファシリテーターに、大阪・関西万博 会場運営プロデューサーの石川勝、同じく2025日本国際博覧会協会 広報戦略局長兼企画局長の堺井啓公がオンラインに集った。

石川が挙げる10のキーワードを起点に、「新しい万博の価値」を探っていく。

EXPO PLL Talks #002 「コップの中の嵐」が多発する、
「巨大なオフ会」にするには?

「遊び」のなかに「学び」が組み込まれていること

齋藤精一(以下、齋藤)

今回は、石川さん、堺井さんに挙げていただいたキーワードをもとに、打ち合わせなしでディスカッションできたらと思います。

石川勝(以下、石川)

今日は“10の言いたいこと”と題して、「公共か、興行か?」「新しい万博って?」「ロングテール&クラスターの時代」「万博は巨大なオフ会」「万博は「死の谷」を超える架け橋」「姿形の未来像こそリアリティがある」「スマート万博がやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!」「バーチャル会場はデジタルツイン?」「人の代わりにアバターが並んでくれる?」「坂の上の雲、の中」を用意しました。

齋藤

まず「公共か、興行か?」というところから話していきたいのですが、石川さんがこのキーワードを選んだのはなぜですか?

石川

博覧会って社会に変化を促す公共事業的な見られ方が強いですよね。確かにそうした役割はあるのですが、一方で私たちはつくり手なので、お客さんに入場券を買ってもらってその分満足して帰ってもらう、興行として成功するというミッションを持っています。

そういった二面性を両立させながら成功させなければならないのが、万博の特徴だと考えています。

齋藤

SDGs、エネルギー、スマートシティなど社会課題のほうが前に出過ぎてしまうと、どうしても「楽しさ」が削ぎ落とされてしまいますよね。世界が一堂に会するからこそ、興行的に楽しんでもらい、その裏にしっかりと学びや気づきがあることが重要だと感じます。

堺井啓公(以下、堺井)

今の時代、ひとつの場所に集まることがより大事になっていると思います。

導入として万博に来たくなるような発信を行い、取り入れた様々な情報をもってその場に足を運ぶ。そこで初めて体験し感動することで、満足してもらう。こうした流れを万博でしっかりつくっていきたいですね。

齋藤

昨年末に策定された基本計画の中にも学びの要素が盛り込まれていますが、楽しさの要素がこれからどんどん肉付けされていくと思います。1970年の大阪万博では、何十回も来場した、ピンバッジを集めたなどの話を伺いました。今「こんなことを興行的にできたらいい」と思うことはありますか?

石川

万博というと、入場料金を払って楽しむ仕組みになっていますが、今回の万博は催事を有料にすることも検討しています。

入場料金に別途お金を払うお客さんが満足するものが求められますし、有料だからこそクオリティの高いものを提供できるという意見もあります。

また、エンターテインメントは産業として重要な役割を果たしており、これから伸びていく分野です。万博にはこれまで製造業やサービス業の企業が多く参加してきましたが、エンタメ産業もプレイヤーとして入るきっかけにしていきたいと考えています。

齋藤

楽しみ方、学び方も様々に考えられますよね。今回は「大阪・関西」という名称が使われていますし、夢洲会場だけでなく、万博という契機を使って同時多発的にエンターテインメントを発信する必要があります。

石川

現状はコロナが収束することを願うばかりですが、インバウンドが戻り海外観光客が万博に足を運んだ時に、万博とあわせて関西の各地を訪れてほしいですね。万博をきっかけに関西広域が盛り上がるあり方を探っていくべきだと思います。

同時に、いただいた入場料金を原資に会場のサービスや催事、運営、セキュリティをつくっていく訳ですから、リアル会場に来て楽しんでもらうことが事業の中核です。この部分をないがしろにせずに、万博会場から広域へと波及していく仕組みを作ることが重要になると考えています。

堺井

海外から来られる方は会場だけでなく、関西・日本に興味を持っている方がほとんどだと思います。身近にある自然や文化、産業を体験して楽しんでいただきたいですね。

齋藤

万博に来て、様々なことを学んで、これからの生き方、持続可能で必要な社会課題を高い濃度で実験していくのが夢洲会場だと思います。そこで学んだものをもって、他の場所に足を運び体験してほしいですよね。

興行として万博の中で様々な企業が参画していただきたいですし、最終的には公共に落ちてそのサイクルが繰り返されることが理想です。

堺井

主催者としては青天井でやれない部分もあるので、自分たちでできないものは参加を呼びかけながら、共創していく構造でやっていかないといけないですね。

齋藤

会場にみんなが得意なものを持ち寄って、会場内をしっかりつくり上げていくこと。バーチャル万博という、これまでと異なる参加の方法がありますが、ディスカッションをオンラインでどれだけ行っても、シナジーは実際に会うことで生まれる。これをパンデミックで改めて痛感しました。どちらかを選ぶというよりは、バーチャル・リアルを選べるエコシステムが必要です。

(公社)2025年日本国際博覧会協会 堺井啓公(左上), PLLクリエイター 齋藤精一氏(右上) 会場運営プロデューサー 石川勝氏(下) (公社)2025年日本国際博覧会協会 堺井啓公(左上), PLLクリエイター 齋藤精一氏(右上)
会場運営プロデューサー 石川勝氏(下)

万博は「巨大なオフ会」?

石川

「万博は巨大なオフ会みたいなもの」だと思っていて、バーチャルとリアルがこれほど同等の価値を持っている時代を初めて迎える訳です。

「オンラインで何でもわかるのだから、わざわざCO2をたくさん排出してまで足を運ぶ必要はないんじゃないか」という議論も当然あります。やはり、リアルの持つ価値をしっかり顕在化させていくことは、リアルの役割が変質していくネット社会において重要なテーマです。

4日間で20万人以上が集まるパリのジャパンエキスポは、最初は数人の日本のアニメ・漫画好きが趣味を語り合う場でした。これがあれよあれよとネットを介して規模が膨らみ、最終的にはヨーロッパ中のアニメファンが集まって文化体験をするイベントとなりました。

ネット上で趣味の世界で楽しむ個人がSNSで繋がり、年に1度開催されるリアルイベントで会うことでワクワク感が相乗効果的に高まり、現地の交流や出会いで興味を拡大化させるという世界観が生まれています。今の時代の大型イベントはそこを意識していかないといけない。

忽然とオープンするのではなく、ネットを使いながら交流を育て、オフ会として万博があり、終わった後も繋がりが継続していく。そんな仕掛けをつくっていきたいです。

齋藤

2025年にパッと開催されて6ヶ月後にパッとなくなるのではなく、その前から万博を始めていくことはすごく重要ですよね。

石川

本当にそう。そこにサイバー万博が果たすことができる役割があるはずです。

堺井

万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」ですが、自分がデザインした未来社会を実現していくために、2021年の今からみなさんにアクションを起こしていただく。そのためのプログラムが「TEAM EXPO 2025」です。

万博のコンセプトは「People’s Living Lab」。会期前から多くの参加者がそれぞれの取り組みを持ち寄り、SDGs達成に資するチャレンジを会場内外で行う。未来社会をただ考えるだけでなく、行動することによって現実社会を変えていこうという試みです。

「つくろうみんなで」をテーマに、誰もが参加できる万博の仕組みを構築する予定で、プログラム構成は「共創チャレンジ」と「共創パートナー」に分かれます。

前者は万博のテーマの実現、SDGs達成の貢献に向けた多様な取り組みで、こういう社会にしたいと参加者に宣言いただいて、行動変容を促すアクションを起こしてもらう。後者は、人や知恵、フィールド(場)、機械設備、資金などを提供し、情報発信をしていく、多様な活動を創出・支援する企業・団体を指します。

共創チャレンジには、「世界中のみなさんに、樹木の苗木の植栽体験を」「和紙繊維が繋ぐ循環型プロジェクト」「EXPO2025 PR大作戦」「水素社会実現!ゼロカーボンチャレンジ」など、社会課題に関する取り組みが多く見られます。

博覧会協会としても、イベントを実施しながら取り組みを発信します。2025年にリアルの場ができるまでに各種イベントに出ていただきながら、関係者が集まって議論をし、ネットで繋がり、2025年にベストプラクティス賞をつくって世界に発信することなども考えています。

今日のEXPO PLL Talksもそうですが、万博は会期前からオンラインで多様な人たちがそれぞれの立場から国内外へ発信しながらつくりあげていくものです。プロセスをこういったトークでも発信し、聞いた方がアクションに参加して「自分ごと化」していく。更に輪ができていくような取り組みになればと思います。

また、「People’s Living Lab」というショーケース形式で、まだ見ぬ技術を実証・実装する場をつくることも考えています。

石川氏 「10の言いたいこと」 石川氏 「10の言いたいこと」

「コップの中の嵐」を多発させる

齋藤

チャットのコメントでは、「中高生を中心にしたブース」を希望する声も挙がっています。マスク越しの表情や会話の記憶からスタートしてしまう子どもたちに、何らかの希望を託せるものをつくりたいというものです。これからの社会に希望が持てるものをつくっていくというのは、万博が担うべきひとつの役割ですよね。

「DXの時代」とよく言われていますが、DXの基本というのは「個人規定」です。無数にある価値観をすくい上げて、小さいコミュニティを一つひとつつくり上げていくことが必要です。

「やりたい」ではなく「やる」という人たち、然るべき人たちとコミュニケーションを取り、それぞれを繋げられるようにすれば、最終的に万博は巨大なオフ会になるのではないかと思います。

石川

今の話を受けて、「ロングテール&クラスターの時代」について。

「今みんなが楽しいものは何だろう」と考えた時、もちろん1970年の万博の時とは大きく異なります。僕らより少し上の世代の方々が大阪万博を子どもの頃に体験して、大きな影響を受けたと聞いています。大阪万博は半年で6400万人が来場した、事業的にもお化けイベントでした。この頃は「大衆」が存在して、みんなが見る月の石を自分も見ることで満足感を得られる時代だったと思います。

当時の博覧会の姿は、常に大衆に向き合ってつくるというのが正しい姿でしたが、今は異なる価値を持つクラスターの人々が、長いロングテールを形づくっています。

元経済産業省の官僚で、オックスフォード大でクールジャパンの研究をされていた方が、欧州でのクールジャパンブームを指して「コップの中の嵐」という表現を使っていたのが非常に印象的です。ジャパンエキスポなどのイベントは閉じたコミュニティの中で嵐(熱狂)が吹き荒れている。しかし、すぐそばにいるにも関わらず、コップの外にいる人は嵐をまったく感じない。

巨大なオフ会の中に嵐が吹き荒れるコップが無数に置いてあるような、多面体のような構造になっているのが、今の時代にふさわしい万博のあり方なのではないかと思います。

堺井

一方で、社会課題に立ち向かう時、また世の中を変えようとする時には大きな流れも必要です。それぞれの熱狂と同時に、ひとつのイシューに対して多くの人が行動変容を起こす。両方の要素が不可欠ですね。

齋藤

そうですね。「いのち輝く未来社会のデザイン」というのは手法論であり、評価論です。

様々な人が多様な価値観を持ち、誰もがものをつくり、発信も行える時代ではありますが、「生活を、世界をより良くしたい」など、目指しているところはみんな同じだったりもします。

前回も、「空を飛ぶ車もいいですが、快適な通勤電車をつくりたい」というチャットのコメントがありました。アニメが好きな人も、車が好きな人も、食べ物が好きな人も、文化が好きな人も、同じ方向を見られるアウトカムやファシリテーションが必要です。

石川さんがおっしゃったロングテール&クラスターと、堺井さんがおっしゃった大きなムーブメントを両立するにはそこが重要な気がします。