EXPO PLL Talks

EXPO PLL Talks #003 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性― EXPO PLL Talks #003 新しい万博の価値 ―サイバー万博の可能性―

大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するためのコンセプトである「People’s Living Lab(PLL、未来社会の実験場)」。

このコンセプトのもと、多様な実践者や有識者が、それぞれの立場からテーマに関する取り組みを国内外へ発信し、万博を共に創り上げていく場として、オンライントークイベント「EXPO PLL Talks」がスタートした。

第3回は、パノラマティクス 主宰・PLLクリエイターの齋藤精一をファシリテーターに、大阪大学教授/ATR 石黒浩特別研究所客員所長で大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーの石黒浩、また音楽家/数学研究者/STEAM教育家で同じくテーマ事業プロデューサーの中島さち子が登壇(※)。

石黒と中島のテーマ事業である「いのちを拡げる」「いのちを高める」を起点に、万博の新しい可能性を議論した。

※アニメーション監督/メカニックデザイナーでテーマ事業プロデューサーの河森正治は事情により欠席

EXPO PLL Talks #003 サイバー万博の意義は、
「実世界の多重化」に挑むことにある

50年後の人々が追いかける万博となれるか?

齋藤精一(以下、齋藤)

まず、簡単な自己紹介をお願いできますか?

石黒浩(以下、石黒)

自分そっくりのアンドロイドをつくっているというのが世間に一番知られているかとは思いますが、自動運転・産業用ロボットから始まり、社会や人と関わりながらサービスを提供するロボットについて研究開発を行っています。

「人と関わる」というのは従来のロボット研究にはなかったもので、ロボットをつくるにあたって一番おもしろいのは、人を理解することがより重要になってくるということ。人間はなぜこんなにも技術に憧れるのかというと、技術によって人間は進化したいから。つまり、技術とは人間の一部なのです。技術を学び、技術の結晶であるロボットをつくるということは、人間を理解するのとほぼ同義であると考えながら活動しています。

中島さち子(以下、中島)

ジャズピアニスト、数学研究、STEAM(Science/Technology/Engineering/Arts/Mathematics)教育を行っています。また、メディアアーティストとしての活動、事業経営も行っています。

今回の万博では遊び・学び・芸術・スポーツの領域で、みなさんの心が高まるような試みにできたらと考えています。

齋藤

8人のテーマ事業プロデューサーにはそれぞれテーマ事業があり、石黒さんは「いのちを拡げる」、中島さんは「いのちを高める」となっています。

万博はそれぞれの体験やイメージがありますが、最初にオファーを受けた時、どのような可能性が万博にあると考えましたか?

石黒

僕が最初に声をかけてもらった時は、あまり乗り気じゃなかった(笑)。なぜかというと、コロナの前は旧態依然としたイメージを万博に抱いていて、やるならリアルとバーチャルのハイブリッドな万博でないといけないと言っていました。するとコロナによって大きな方針転換がなされ、サイバー万博がデフォルトの方向性になった。ならば、ぜひやらせていただきたい、というのが参加の経緯です。

万博は50年前に最も成功したイベントですし、僕は大阪に住む人間で、太陽の塔を見ながら万博公園隣の大阪大学に毎日通っていたわけですから、次の万博でしょうもないことをやってしまったらとんでもなく怒られてしまう。大阪に住めなくなってしまう可能性もあるわけです。ですので、それくらいの緊張感を持って取り組んでいます。

万博で展示されたものは、その後の技術や科学が目指すものとなっていましたが、次の万博は50年後の人々にとって目標になるのか、これが非常に大事な問いになってくるだろうと思います。

中島

私は1970年の大阪万博を経験しておらず、あまり関わりはなかったのですが、岡本太郎さんが好きで、彼が与えるエネルギーや「民の視点」にとても刺激を受けていました。万博にまつわる話を多く聞いていましたが、そこには、ある種マスに向けた大きな熱狂が20世紀にあった。21世紀の今はみんなが発信・表現ができて、繋がって生み出していく時代です。更にパンデミックが起き、万博の定義が問われているのではないかと思います。

何ができるかを問いつつも、この万博をきっかけにみなさんを元気にできるものをつくりたいですね。様々な専門知や自分が携わってきたSTEAM教育などを掛け合わせて、どこまで仕掛けられるかを考えています。

テーマ事業プロデューサー 中島さち子氏(左), テーマ事業プロデューサー 石黒浩氏(中央), PLLクリエイター 齋藤精一氏(右) テーマ事業プロデューサー 中島さち子氏(左),
テーマ事業プロデューサー 石黒浩氏(中央),
PLLクリエイター 齋藤精一氏(右)

万博が未来を示すことができなかったら、何のための万博か?

齋藤

1970年の万博が開催された時、私は生まれていなかったのですが、つくばエキスポや愛知万博には参加し、上海、ミラノ万博には仕事で携わらせていただきました。その中で、万博はおもしろいものでなければいけないという前提はありつつ、テーマパークとしての側面が強くなりすぎていると感じることがありました。

国際博覧会条約では、博覧会の定義を「公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは二以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すもの」としています。

パンデミック以降、バーチャルやサイバー、オンラインで繋がる万博への期待が膨らんできました。またSDGsという大きなテーマもある中で、万博を再定義するべきだと考えていますが、2人は大阪・関西万博の役割についてどのように考えていますか?

石黒

コロナで社会の生活様式を変えようとしているが、ではどういう生活様式や価値観が必要なのか。それを新しい技術をもって世界に定着・浸透させるのが、万博の一番大きな役目なのではないでしょうか。

条約にもあるように、万博で将来への展望を示すことができなかったら何のための万博なのか。私たちの世代は50年前の万博が示してくれた将来に向かって突き進んできたところもありますし、未来が不確定な中でも、複数の可能性をしっかりと見せることが重要です。

中島

「人間のためだけではない万博」というのもとても重要だと思います。様々ないのちが参加する。生物に限らずアンドロイドなどの新しい存在とともに、いのちを愛しみあって生きるイメージを万博で出せるといいですね。

テーマ事業プロデューサー 石黒浩氏
テーマ事業プロデューサー 中島さち子氏