甲子化学工業株式会社
2025.02.18
「ホタテの貝殻が防災ヘルメットに」 モノづくりの楽しさで課題解決に挑む Vol.4
全5色あるホタメット

万博会場でモビリティーに乗るスタッフたちがかぶる自転車用ホタメットは、その洗練されたデザインから来場者の目を引くにちがいない。南原は「万博では私たちも楽しく盛り上がるつもりです。関西、そして日本のモノづくり企業の元気な姿を、多くの人に感じてほしいんです」とほほ笑む。

そのホタメットは今、自社のオンライン通販で、一部の色の生産が追いつかないほどの人気だ。ある企業からは「交通安全意識を高めてもらうため社員たちに贈りたい。それぞれの誕生日に届くように手配を」とまとめて注文が入った。大きさは大人向けのフリーサイズだけだが、何人もの購入者から「子ども向けはないのですか」「おしゃれなので親子でそろえたい」との要望が届いている。予想以上の人気に南原は、すぐ3〜8歳向けの2種類の自転車用ヘルメットの開発に着手。ともに大人向けと同じデザインで、強度を保ちつつ、空気穴をあけて夏の暑さや蒸れを防ぐ仕様だ。「軽さと強さを両立するSHELLTECの技術を生かし、2025年5月頃に発売したい」と意気込む。

ヘルメットではさらに工事現場や工場内でプロの頭を守る、より強靭(きょうじん)な産業用も視野に入れる。「守る」というコンセプトから、新しい製品が増えようとしている。大阪府の酒造会社と連携し、小さな制作機器を万博会場に持ち込んで、ワークショップを催す計画も進んでいる。こうした日用雑貨だけでなく、産業用としてホタテの貝殻を数万トン規模で処理するプロジェクトも動き始めているという。用途は広がる一方だ。

南原は今、未来を思い描いている。「家電製品や自動車の部品も貝殻をアップサイクルしたプラスチックが当たり前のように使われるようになる」。貝殻を用いれば、その分、石油由来のプラスチックを減らせる。地球環境への負荷軽減につながるだろう。

「私たちがつくる人工物は実は、すべて自然界、生物界からいただいた素材でできている。廃棄物も、成分に着目すると自然界、生物界にあるものと同じ」と南原はいう。ホタメットなら「炭酸カルシウム」という貝殻の成分。ホタテやカキなどの貝類が、大気から海水に溶けた二酸化炭素を取り込んでつくった生物由来だ。「それをヘルメットに使わせていただく。私たちは自然界、生物界からすばらしい恩恵をたくさんもらっています」と話す。魚介類が好きで、産地を訪れるたび、とれたてのホタテを味わってきた。海の幸のおいしさに感動しつつ、生きとし生けるものへの畏敬の念を忘れない。

企画開発部部長 南原 徹也さん
「ホタメット」を手に打ち合わせをする様子

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