甲子化学工業株式会社
2024.03.13
「ホタテの貝殻が防災ヘルメットに」 モノづくりの楽しさで課題解決に挑む Vol.1

行き場を失っていたホタテの貝殻を原料にした「ホタメット」が、大阪・関西万博の防災用公式ヘルメットの一種として採用される。製作に挑んだのは、大阪府大阪市に本社、東大阪市に生産拠点を構えるプラスチック加工会社「甲子化学工業」。挑戦の背景には、町工場のモノづくりの底力を示し、社会の困りごとを解決したいと願う、一途な思いがあった。

2021年冬、企画開発部長の南原徹也のSNSはいつになく盛り上がっていた。卵の殻で成形したエコプラスチックのツイートが拡散され、多くのメッセージが寄せられていた。その一つに目がいった。北海道のホタテ産地で貝殻が大量に余り、問題になっているという。南原は、ふと思った。貝殻の成分も卵の殻と同じ炭酸カルシウム。自社の加工技術をつかえば、使い道のない貝殻に新しい命を吹き込み、問題解決に一役買えるかもしれない。

思い立ったら、行動あるのみ。水揚げ量で全国の1割を占める北海道猿払村に連絡をとり、役場を訪ねた。漁港に案内されると、水産加工場横で野ざらしの貝殻がうずたかく積み上がり、予想以上の多さに言葉を失った。同村を含む宗谷地方で年間約4万㌧の貝殻が廃棄されているという。異臭や土壌汚染などが心配され、村でも対策を探ってきたが、継続した活用法が見つからず、長年の課題となっていた。

伊藤浩一村長と面会し、貝殻と廃プラスチックを混ぜ合わせたエコ素材の着想について熱弁した。南原に真剣さを感じ取ったのか、伊藤は声を弾ませた。「やっと挑戦したいという人が現れてくれた」。南原は身が引き締まった。到着の翌日、1日かけて約300キロの貝殻を煮沸消毒した。

帰阪すると、早速実験にとりかかった。貝殻をひたすら砕き、様々な種類の廃プラスチックと混ぜ合わせ、相性を確かめていく。砕いた粒の細かさや分量、混ぜ方など、試したパターンは100を超えた。通常業務の合間を縫い、早朝深夜かまわず、自宅でも実験を繰り返した。元来のモノづくり好きの血が騒ぎ、ただただワクワクした。

並行し、この素材でどんな製品を作り出せるか、アイデアを練った。日本は災害が多いから防災用具にしよう。外敵から身を守る貝殻の役割から連想し、ヘルメットが思い浮かんだ。表面には波形の凹凸加工を施し、一目で貝殻とわかるデザインに。完成した試作品は、通常のプラスチック原料のみで作る場合より最大36%のCO2削減効果を実現。強度も33%高めることに成功した。名称はずばり「ホタメット」に決めた。

伊藤村長らに報告すると、「本当に完成させてくれるとは」「これはすごい」と口々に驚き、喜んでくれた。着想から約1年後の22年12月、クラウドファンディングで先行予約販売をスタートさせ、ドキドキしながら経過を見守った。結果は、目標金額を大幅に上回る応募が殺到。海外からも反響が寄せられた。
Vol.2に続く

企画開発部 南原 徹也さん
北海道猿払村内、堆積されているホタテ貝殻

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