甲子化学工業株式会社
2024.03.13
「ホタテの貝殻が防災ヘルメットに」 モノづくりの楽しさで課題解決に挑む Vol.2
ヘルメットの仕様について打ち合わせを行う

大阪・関西万博の開催が決まって以降、南原はずっと参加の機会をうかがってきた。日本の町工場のモノづくりの技術を世界に示したいという思いがあった。甲子化学工業は祖父が1969年に創業し、後を継いだ父が、少量多品種の生産を強みに必死で会社を守ってきた。南原は大学卒業後、一度は大手ゼネコンに就職。ホテルやトンネル建設など大型工事に携わった。30歳を過ぎた頃、会社をこのままにはしておけないと一大決心し、2019年に転職した。

だが、スタートは暗たんたるものだった。大手から中小に名刺の社名が変わっただけで、展示会に足を運んでも見向きもされない。商談を持ち掛けても話すら聞いてもらえない。確かに会社は存在しているのに、まるで透明人間のようだった。どこを目指していけばいいのか、方向性を見失った。

そんな時、深刻な品不足が続くフェースシールドを医療機関に送る大阪大学のプロジェクトを知った。世間はコロナ禍の真っただ中。「フレーム量産のための製品製造なら、うちでもできる」。協力を申し出た。クラウドファンディングで資金を募ったところ、目標金額の5倍以上が集まり、国から支給された給付金を会社にわざわざ送ってくれる人もいた。

世の中にあふれる善意に触れ、もともと大好きだったモノづくりへの情熱がよみがえってきた。社会課題を解決するために、その技術を役立てる。ベタかもしれない。でも、その動機がすとんと腹落ちした。

ホタメットの試作品ができた頃、東大阪市のメルマガで万博への手がかりを見つけた。Co-Design Challengeの募集記事。これしかないと思った。ホタメットの素材に目を付けた海外企業からは、すでに問い合わせが相次いでいる。スペインの服飾雑貨メーカーからは発注も受けた。世界最大級の国際広告祭のデザイン部門で金賞を受賞したほか、環境をテーマにした海外の展覧会からの引き合いもきている。想像もしていなかった反響だ。 

南原の会社周辺には、大手は狙わないニッチな技術で、人々の暮らしを支えている中小企業がたくさんある。原材料のコスト高を価格転嫁できないまま、この20年間、踏ん張り続ける姿をずっと見てきた。「どの会社もそれぞれの武器をもっている。ただ、見せ方や生かせる分野を探し切れていないだけだ。自分たちのささやかな挑戦が、少しでも町工場全体の元気につながってくれたら」

南原はいま、モノづくりに挑戦できる日々に、大きな喜びを感じている。

粉砕された貝殻
ヘルメット製造の様子

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