信楽陶器工業協同組合
2024.11.12
リサイクル陶土で描く「これからの信楽」。陶芸の火は絶やさない Vol.1
成形されたスツールに模様をつける様子

日本遺産の日本六古窯のひとつ、信楽焼(滋賀県甲賀市)。時代が変わっても色あせない風合いは多くの人を魅了してきた。1970年の大阪万博、90年の国際花と緑の博覧会(花博)に参画してきた産地が今回、Co-Design Challengeで発信するのは「これからの『信楽』をデザインする~リサイクル資源とデジタル技術による陶芸文化の創造~」だ。先人たちの思いを受け止め未来へつなぐ。「土と炎の焼き物の里」が一丸となって新しい息吹を吹き込む。

滋賀県の南端に位置し、周囲を山々が取り囲む。細い路地には窯元が点在し、登り窯やレンガ造りの煙突がレトロな風景を醸し出す。のどかな山里からは想像しがたいが、遥か太古に思いをはせると、この地は琵琶湖の原型となる古代湖に覆われていた。現在から約400万年前から43万年前の間に湖底に堆積した土砂や動植物の残骸などが古琵琶湖層と呼ばれる地層を形作り、焼き物に適した良質な粘土を産出。この「琵琶湖の恵み」の土を使い、鎌倉時代中期に信楽焼の歴史が始まったとされる。

信楽焼を支えるこの土の有効活用に加え、生産者は廃棄物のリサイクル活用という課題を抱えていた。万博へ参画した経験を持つ産地では、2025年の大阪・関西万博への参加の機運が盛り上がり、Co-Design Challengeへの取り組みを検討する中で信楽陶器工業協同組合が出した答えが「リサイクル資源を従来原料に配合した陶土の開発」だ。いわば「万博仕様のハイブリッド陶土」。この土で作った信楽焼のテーブルスツールを会場に持っていこう。制作は、大物陶器で実績と定評のある「丸滋製陶」に白羽の矢が立った。

「信楽の土と炎を絶やさない」を使命とする組合にとっても陶土開発は、ほとんど前例のない取り組みだ。廃棄された陶器片などを粉砕し、磁器系とアルミナ系の粉を作り、信楽の土に練りこんでブレンドしていく。信楽の風合いを損ねないように、ブレンド比率を調整し、大型の混錬機と土練機で陶土を作り上げた。信楽の土は4割程度で残りはリサイクル素材などで賄う。資源の有効活用につながるだけでなく、大物陶器の制作には大事な要素となる収縮率抑制や強度向上という思わぬ副産物もあった。

「プレッシャーはあるが、信楽代表として大物が得意なうちの窯で勝負する」。産地の期待を背負った土が丸滋製陶の今井将之のところに持ち込まれた。「SHIGARAKI」を世界に発信する。普段は柔和な今井の表情が引き締まった。 

Vol.2に続く

丸滋製陶 代表取締役 今井 将之さん
信楽焼の窯元が多数点在する「窯元散策路」の風景

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